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26 卵、まみれる。

大自然はなんだかんだ過酷である。

「なんだ、この生き物?」

 思わず声がでたが、幸いなことにゴブリン君の眠りは深く起きる様子はなかった。ごろんと寝返りをうって仰向けになり、鼻提灯を作り出す芸達者ぶり。こんな見事なものは初めて見た。

「生物としてこれでいいのか?」

 確かにこの岩場に外敵の姿はない。ただ時折君ぐらいな一口でぺろりと行けそうなでっかい鳥が飛んでるんだけど・・・。

「ぎゃぎゃぎゃああ。」

 って言ってるそばから、忌々しいあの声が。

 知性の感じないやかましい鳴き声に、さっとさす黒い影。山から山へとやかましく飛ぶ巨鳥。鳥らしく戯れにフンを落とす空飛ぶ公害。今までは通り過ぎるだけの畜生が見事につられ折った。

「ぎゃぎゃ?」

 うん山肌にある緑の点を見つけた視力は認めてやるから、さっさと失せろ。

「ぎゃぎゃぎゃ。」

 あっだめだ、もうおやつをみつけた子供みたいになってる。そんなになっても起きる気配のないゴブリン君は大物だ。

「ぎゃああ。」

 歓喜の声を上げてその嘴を振り下ろして、おやつを味わおうとする巨鳥。

 まったくもって度し難い。

「ぎゃ?」

 人の寝床を血で汚されてはたまらないと俺は、バリアを張ってその頭を固定する。イメージとしてはでっかい首輪。空中に固定された拘束は本来ならばたいした効果はない。

「ぐええー。」

 だがタイミングが最悪だった。勢いよく嘴を振り下ろそうとした結果、バリアは巨鳥ののどを直撃し、激しい痛みをともったらしい。目を白黒させて巨鳥は、もろにはいた。

「ぎゃああああああ。」

 ほどよく生暖かいであろう内容物。あれ鳥って軽量化のためにゲロとか儚いんじゃないの?それはさておき、ゲロを浴びたゴブリンは流石に飛び起きた。寝起きとは思えない俊敏さでその場から離れ、キョロキョロと周囲を見渡し、そして。

「ぎゃああ(ジョー――――。)」

 めっちゃ漏らしやがった。最悪だ、ゲロに小便なんてもうここに居たくないじゃないか。

「ぎゃぎゃ?」

 ショックでバリアを解除してしまうと、巨鳥はそのまま飛び立つ。去り際にフンも落とす最悪っぷり。あれだ、立つ鳥、後を濁さすじゃないのかよ。

「ああ、もうめうちゃくちゃだよ。」

 バリアで防ぐなんてことも考えたけど、バリアは俺にとっては手足のようなものなので思わず避けてしまう。まあ、これに懲りて、鳥は来ないだろうけど、衛生的、それ以上に精神的にこの場所にはもう痛くないなー。

「ぎぎぎ?」

 そんなことを考えていたらゴブリン君が我に返って、自分の顔をぺちぺちと叩く。うん、夢か幻と疑いたくなるよねー。

「ぎぎぎーぎーーーー。」

 巨鳥が居なくなった事実、そして自分の身体が回復している。その事実を理解したゴブリン君は喜色に富んだ奇声をあげて、その場で小躍りする。

「ぎー、ぎー。」

 その様子は、すごく楽しそうだけどゲロまみれで周囲には鳥の糞だらけ。腰の布もびしょ濡れ。匂いを感じないはずの卵も顔をしかめたくなる。いや、顔もないか。

「ぎー?ぎぎ?」

 ひとしきり踊りおえたゴブリン君は、不意に俺の方をみて、ニンマリと笑う。

「ぎー。」

 やめろ、汚物が近づくな―。

 とっさにバリアーで囲いを作ってゴブリン君を閉じ込めると、勢いのままにぶつかり、顔面が面白いことになる。

「ぐえー。」 

 ぐったりと崩れるゴブリン君。しかし、こっちもこっちもバリアーが汚物にまみれて気持ち悪い。

「ぐぬぬ。」

 とりあえずバリアを消して何もないと思い込みたいけど、何度も同じことはしたくない。

「ぎー、ぎぎ、ぎぎぎさー。」

 自分の状況が分からず混乱してしばらく呆然としていたゴブリン君だが、今度は慎重に近づき、俺の卵ボディにそっと触れる。

「ぎ、ぎぎっぎい。」

 そしてガンガンと叩くが、卵はびくともしない。

「ぎぎぎぎ。」

 近くに落ちていた石を使ってガンガンと叩くが効果はない。ステータスは分からないが、俺の殻はそうとうに頑丈らしく、ゴブリン君の奮闘むなしく、卵にキズ一つつけられない。

「ぎーぎー。」

 悔し気にそこで地団駄を踏むゴブリン君。そろそろ諦めて帰ってくれないかなー。

 と思って油断していたのが悪かった。

「ぎぃーーー。」

 怒りと汚物にまみれたゴブリンはあろうことか、おれがぴったりフィットしていた岩場に蹴りをいれた。本来ならば1ミリだって動かないはずなのに、怒りによるブーストと奇跡的なクリティカルで、岩のバランスが崩れてしまった。

「あっ。」

 我ながら間抜けな声だと思う。が、それ以上は何もできず卵はゴロゴロと転がりだす。

「ぎー。ぎぎぎー。」 

 勝ち誇るゴブリン君の顔がちらっと見えたが、それ以上にぐるぐると回る視界でそれどころじゃない。勢いのついた卵はそのまま岩場を飛び出し、すごい勢いで転がっていく。

 ちょっと面白い。

「ぎぎ、ぎぎー。」

 我に返って慌ててこちらを追うゴブリン君。そんな様子を見ながら卵はゴロゴロと転がっていく。

 願わくば、水場に堕ちてくれないかなー。ダメージはないけど、汚物まみれの手でたたかれたのはちょっと。

 



魔法少女どこいった?と言ってはいけない。

卵はいつだってマイペース。

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