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25 卵はソロ活動を満喫したかった。

卵のお1人様ライフ

 季節が一周するほどの時間の間、俺は岩場でのんびりと過ごすのであった。

「しかし、孵化の兆しが見られない。」

 なんとなくだけで中身が固くなったような気はするけど、気のせいで済むレベル。卵で育つ生き物は、自力で破って生まれるらしいけど、そもそも卵の中の「俺」がはっきりと認識できない時点で、根本的な何かが違うのかもしれない。

 それが竜という存在だからなのかもしれないが、俺が自由に空を飛べる日はまだまだ先のようだ。


 まったりと変化する山の景色を楽しみながら考えたのは自分の存在について。

 見た目は卵で大きさはラグビーボールぐらい。ファンタジーに出てくるドラゴンの卵そのもの。

 自力で動くことはできないけど、バリアーを貼って自分の周囲を囲ったり、ちょっとしたものなら動かすことができる。ただし、バリアーを使っても自分の身体を動かすことはできないし、1人だと最低限にしかはれない。おそらくは契約、あるいは周囲の生き物とともに動くとき限定でバリアーの範囲が強化されるのだろう。

 卵なのに、自分の姿を3Dゲームのキャラクターのように俯瞰してみたり、FPSのような視点に切り替えて、周囲を確認することもできる。俯瞰視点の場合は見える範囲は限られるけど、一人称視点ならそれなりに視力はいいようだ。

 食欲、性欲はないが、睡眠欲求はある。ただ単に時間を持て余して眠くなっているだけかもしれないけど、眠っていたら数日経っていたぽいときが何度かあった。睡眠時間が孵化に影響するかは、今後試してみたい。


  ネーム リュー 

  種族  黒竜

  状態  卵 健康   

  スキル 鑑定 自動防御 マニュアル防御 リジェネ 才能開花補助。 


 ステータスは、寮でお世話になっていたころから変化がない。

 少なくとももうしばらくは、卵ライフを楽しむ必要があるらしい・・・。

「まあ、いいけど。」

 幸いなことに、こういう動けずな状態に俺は慣れている。そして、しゃべる卵にもこの世界は寛容だ。

 キューカンバ様なる人が設計した「キューリア」という国と世界。そして魔法少女というシステム。精霊という立ち位置の卵さんは、相手の体力を回復させ、才能を伸ばす名トレーナである。別れを惜しむ子は多かった。

 魔法という特異な力とその代償。世界に発生するよどみを浄化する精霊。まるで植物の光合成のようなことをしているらしいが、それ以上にこの世界の「脅威」に対抗する力を魔法少女に与えるのが精霊の役目らしい。(ドレン老師が色々教えてくれたことの一つ)

 それは、不当な輩を成敗する治安維持的なものから、危険な場所にある素材の採取に、危険な生物の駆除など幅広いものだ。(この世界では、人間のエリアに侵入したクマや鹿などの野生生物は即時駆除されるとのこと。)

 何より大事なのが、人間の生活圏の外から迷い込んでくる魔物と呼ばれる存在への対処らしい。過去の勢力図の生き残りの末裔だったり、魔力の淀みによって変異した動植物。それを総じて「魔物」と呼ぶらしい。ヱンペル先輩に運ばれたときやこの岩場で過ごしているときに不意に感じるよくわからない気配の正体が「魔物」らしいが、幸いなことにまだ遭遇していない。

「きひひひ、そこら辺の雑魚じゃ、卵ちゃんに傷一つつけられないと思うけどな。持ち去られないようにだけ気をつけな。」

 ヱンペル先輩はそんな助言をしてくれたが、いざ遭遇したら流されるままに持ち去られてしまう気がする。卵には手も足もないのだから。

 なぞ急にそんな話を?

「げひゃ?」

 今、まさに、此方を観察している何かの存在にばっちり気づいているからです。


 子どもほどの背丈に、緑色の肌と髪。およそ人間とは思えない容姿と知性の感じられない鳴き声。粗末な布を身にまとったそれは、やや離れた場所から俺のことを観察していた。

(ゴブリン?)

 前世でみたアニメにでてきた緑の小鬼。数を頼みに戦士に襲い掛かり返り討ちにあっていた雑魚キャラのイメージがぴったりと収まるそれは、なぜか傷だらけだった。

 他の生き物の気配が皆無の山頂にそれは一匹だけ、何かに敗れてここまで逃げてきたか、あるいは、鳥か何かに襲われて奇跡的にここにたどり着いたのか?どちらにせよ、生物がこんなに近くまで。

「ぎゃぎゃぎゃ。」

 いや噛みつかれたのは初めてだ。

「ぎゃ?」

 素敵な卵の魅力に思わずかじりつくゴブリン君だが、卵の殻は伊達ではなく、傷一つつかない。諦めきれず、ゴブリンは拳やその辺の石でガンガンと俺を叩くが、効果はない。

「ぎゃー。」

 やがて、力尽きてゴブリンは岩場へと倒れこむ。よほど飢えていたのか、恨めしそうに俺を見る目が気の毒に思えるほどだった。

(どうしたものか?)

 バリアを貼って身を守ったり、追い払うことはできるかもしれない。このまま放置して、野ざらしの死体となったゴブリンと同居するのは避けたい。だが、ゴブリンが自力でこの場から去るのは難しいだろう。万が一にも死体になってしまえば嫌な同居生活が始まってしまう。

(致し方ないか。)

 けして、傷だらけの彼?に同情したわけじゃない。ある程度回復したら、勝手に去るだろうと思ったからだ。俺はゴブリンを意識し、癒しを願った。この感覚は見習いさん達の生活で身に着けた技術だ。わざわざ契約しなくても、体力を回復させて、簡単なケガなら癒すことが可能。

「ぎゃぎゃ?」

 自分の身体の変化に気づいたゴブリンは手足や周囲にキョロキョロ視線を動かす。まさか、食べようと思った卵が自分を助けているとは欠片も思っていないのか、自分の変化に戸惑っているようだった。

「ぎゃぎゃ、すぴー。」

 そして、あっさりと眠った。体力が回復したことで緊張が解けたのだろう。ぱたんと倒れるように横になるとすぐにいびきをかきはじめる。生物としてそれでいいのか?

「なんだ、この生き物?」

 


 

自分のメンタルが、とんでもなく強いことの自覚がない卵

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