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20 卵、先輩精霊と遭遇する。

卵さんはやりすぎたようです。

「そうか、いないなら、育てればいいんだ。」

 思い立ったが吉日、この歪な状況に対して俺はテコ入れをすることを決意した。思えば卵になる前のおぼろげなゲームでもRPGとか育成ゲームでキャラクターを強くするのが好きだった。

 まあ、生活と命がかかっているので遊び感覚で適当何てことはしないけどね。

「よし、2人はこのまま精度を上げる訓練をしてね。」

 デイーとエーベルへそう指示を出して、バリアを解除する。方向性がはっきりした二人なら放置しても大丈夫だろう。

「というわけで、そこの、たしかガブリエラ・マン・マクスウエーズさんだっっけ。」

「えっ、私ですか、覚えていただけるなんて、光栄ですが、どうぞマーズとお呼びください。」

「はいはい、マーズさんの課題は基礎体力と持久力だったよね。それなら。」

 ちなみにこの世界の住人の名前はミドルネームも込みでかなり長い、そのため知り合いは愛称で呼び合うことが一般的らしい。もっとも俺の場合はステータスを確認すれば名前とか個性が分かるので、むしろ愛称を覚える方が大変だったりする。

「じゃあ、とりあえず走り込みかな。希望する人は一緒にねー。」

 そういってマーズさんに俺を抱えてもらったらバリアをベルト代わりに固定する。準備はこれでいい。

「じゃあ、とりあえず訓練場の周りを行けるところまで走ってみようか?」

「えっ?」

「大丈夫、やばくなったら回復するから。」

 契約でのバフはまだ付けないが、一定距離に居れば体力が回復できるのは、見習いさんたちも知っている。

「ええっと限界って?」

 集まってきた数人の見習いさん達も、限界という言葉にビビっているが、中々踏み出せない。

 仕方ないか・・・。

「ほら、いくよ。」

 仕方ないのでバリアを彼女たちの背中付近に作って、形を変える。それで発生する力は差些細なものだけど、彼女たちは驚いて走り出す。

「急ぐ必要はないよ。ただ一定のペースで、呼吸を意識してねー。」

「はい。」

 走り出してしまえば、彼女たちの速度と体力には目を見張るものがあった。マラソン選手程度の速さを維持しつつ、その動きが乱れている様子はない。見習いと言われていても彼女たちもこの世界では上澄みの存在だとわかる。

「あっあぶない。」

 勢い余って飛んでくるエーデルの魔法は適当にバリアで防ぐが緊張感があっていいですねー。

「ひ、ひいい。」

「大丈夫、そのために訓練場の真ん中で訓練しているから。」

 万が一に暴発しても、ここから対応できる。我ながらとんでもない性能だ。

 そんな緊張感のあるランニングの消耗は激しい。普通ならそれだけで一日分の体力を使い切りそうだけど、こまめに彼女たちのステータスを確認して、「疲労」という文字がでたら回復させる。

「あっ。」

「はいはい、まだ頑張れるよ。」

 足が止まりそうなら、バリアでそっと退路を塞ぐ。

「体力をつけるには、反復が大事だからねー。」

 魔力も体力も限界まで削って回復させることで、向上していく。筋トレなどと違い、その変化が目に見えるので、俺に躊躇いはない。

「走れる、走った分だけ強くなれるんだから、幸せだよねー。」 

 すでにおぼろげになった記憶。寝たきりで身体を動かすことすら困難だった自分からすれば、彼女たちは幸せだ。その幸せをかみしめるべきなのだ。


 そんなこんなで、様々な方法で見習いたちのブートキャンプを実施すること数日。

 俺は女子寮での待機をSさんから命令された。

「いや、私はいいと思うんだけどな。うちの相方がな。」

「はあ。」

 訓練だ任務だで、見習いたちが出払った昼下がり、Sさんは俺を抱えて寮の庭先に一本だけある木の前にきていた。

「ドレン、連れてきたぞ。」

「すまないね、S。そして、初めましてだ、卵ちゃん。」

「!!」

 ぞわりとした感触とともに、目の前の木に人の顔が浮かび上がった時はマジでびびった。

 〇が三つならんだシミュラクラ現象とかじゃなく、わりとがっつり人の顔だ。洞のようにくぼんだ幹の向こうには理性的な光をたたえ、幹の模様が老人のような年月を感じさせる。

「私は、ドリアードの精霊「ドレン」、このSと契約して、この寮の管理をしているものだ。」

「は、初めまして。リューといいます。」

 なんとも威厳のあるお姿と渋い声に背筋が伸びる。卵なので気分だけなんだけど。

「じゃあ、私は仕事に行く。またあとでな。」

 そんな緊張マックスな俺を置いて、Sさんは仕事に戻ってしまう。いや、気まずいんですけど。

『ほほ、別に緊張せんでいい。取って食ったりはせんよ。』

『あ、はい。なんか挨拶もせずすいません。』

 精霊同士の念話に切り替えドレン先輩、いやドレン老師は俺に語り掛けてきた。

『かまわん、わしの存在は見習いたちにも隠しておる。できたらリュー君もわしのことは内緒にしてくれうると助かる。』

『それはなぜに?』

 と思っていたら、不意に人の気配がした。

「あれー、リュー様、どうしてこんなところに、日向ぼっこですか?」

「ああ、うん、そんな感じ。最近は色々やってたから今日は大人しくしておこうって思って。」

「クスクス、なんですか、それ。」

 不意に現れた見習いさんは、俺の様子を微笑ましそうに眺めながらまた出かけていった。その間、ドレンさんは顔を引っ込め、見た目は庭に放置された卵だ。

『徹底されてますね。』

『気を使ってくれて感謝するぞ。わし、騒がしいのは好まんからな。』

 気持ちは分からないでもない。女子寮でご利益のあるマスコットをするにしたり、訓練場でスパルタ教官をしたりしていてあれだが、精霊は、精霊というだけで、人間に囲まれすぎている。

『そういう、お前さんはもと人間じゃないのか?』

 うん?

『エンペルから話は聞いている。Sからもな。その能力の高さは精霊そのものだ。相手への配慮もたりないところもな。』

『そうですか、めっちゃ気を使ってますよ。なにせ、自分は自力では動けないので。』

 気ままな卵生活が快適すぎて、前の自分のことを忘れかけているのは事実だ。だからといって調子に乗ってはいない。女子寮の居候とならないように、家賃代わりに見習いさん質の成長を促しているだけだし。

『ふむ、なるほどそういう感じか。』

 やれやれとドレン老師の顔が揺れる。そういえば、ドリアードって女性じゃなかったけ?美しい女性の姿をして、男を誘い出して養分にする系の存在だったような。

『わしらに性別はないぞ。ただ、お前さんの考えているように、容姿で相手をたぶらかす不届きな同胞が確かだがな。』

 あっやべ、考えが伝わってたポイ。

『ほほほ、気にするな。まだ生まれたばかりのお前さんの考えなんぞ、見ていればわかるってだけじゃ。むしろ、若いのにしっかりとした知性を持っていることが面白い。』

『そうなんですか、あいにくと精霊さんと会ったのも、エンぺル先輩とドレンさんだけなので。』

 人間には一杯あってるんだけどな。

『まあ、そういうものだ。精霊は気まぐれよ。エンペルのように社交的なやつが珍しい。お前さん、最初に会ったのがあいつでよかったな。』

 それはそうだ。口は悪いし、気分屋な感じはあるけど、ちょいちょい様子を見に来たりと面倒見がいいんですよね、あの人。

『もしエンペルじゃなかったら、消されてたかもしれんからな、お主。」


 

 新たな精霊との出会い、でこれからどうなる。


 別件で手が足りず、投稿ベースが落ち始めています。頑張りますので気長にお待ちいただけると幸いです。

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