2 悪の組織ではないが、もっとやばいのがいるようだ。
事情説明がなかなか進まない。
異世界転生、いわゆる転生物の舞台と言われたらどこを想像するだろう。髪の情報量が多いイケメンとか美女がいる剣と魔法のファンタジー、貴族な世界に平民が紛れ込んで起こる乙女ゲーム。中世ヨーロッパのように見せかけて、魔法とかを使って地味に高い衛生環境。糞尿を窓から捨てることもなければ、何日も身体を洗わないなんてこともない。そんな世界に現代日本から送り込まれた異分子によって改革なり無双なり恋愛をするものが流行りだ。
あとは転生先がスライムだったり、悪役令嬢だったりと特殊なものがあるけれど・・・
卵ってなんだよ?
さて、状況はよくわからず、疑問だけが増えていくわけなんだけど、受け入れていこう。
「一先ず、俺はあんた達に召喚されたと。」
「はい、その通りです。儀式と執り行い、供物となる魔力を捧げたのは我々です。」
「魔力、供物?」
「はい、 数年かんコツコツとためた魔石からとりだしたものです。」
魔石?なにそれ?
「ふむ、でありましたら、この世界について説明させていただいてもよろしいでしょうか。少々長くなりますが。」
「あとお願いします。
俺の疑惑の気配を感じ取ったのか、ヒコロクと名乗ったおじさんがそんな提案をしてきたので、俺はのっかることにした。長くなろうとも卵なので空腹はたぶんなさそうだし。」
「まず、この場所、この国は「キュウリア」と言います。名前の由来は創始者である初代国王陛下である「キューカンバ様」のご意思によるものと言われています。」
なるほど、名前は大事だ。
「キューカンバ様は200年ほど前に異世界よりこの世界に訪れたと言われています。そして、優れた知性による今の政治システムと魔法少女システムを世に残しました?」
うん?
「政治システムは、国王を象徴とした民主主義制度です。国王は平和と国力の象徴であり、非常時以外は表にはです、実際の祭りごとは選挙によって選ばれた人間たちが会議によってその方針を決めていくというものです。」
「それ以前の政治ってのはどうだったんですか?」
「は、はあ。貴族と呼ばれる一部の血族が世襲制でそれぞれの土地を支配していたそうです。貴族には青い血が流れていると狂言をいい、他の人間を奴隷のように扱っていた。そういう暗黒の時代だったそうです。」
うーん、なんともまあ。まるで急に日本じゃないか?
「魔法少女システムというのは?」
「はい、これこそが「キュウリア」やこの世界に平和をもたらした画期的なシステムであり、我らが正したいこの世界の歪の根幹であります。」
いやそうじゃなくて、もっと具体的に、ほんと最初からお願いします。
「そ、そうですね、キューカンバ様は元々住んでいた世界での知識をもとに、この世界に「魔力」というエネルギーの概念を持ち込まれました。これは自然界や生物が体内に保持する生命エネルギーのようなものでして、キューカンバ様は、訓練と知識によって「魔力」を操る技術「魔法」を広められたんです。」
「魔力に魔法ねえ、具体的にはどんなことができるんですか?」
「簡単なところでは、魔力を活性化させることで得られる健康と身体強化ですね。呼吸法や訓練によってこの世界のほとんどの人間は、若く健康的な生活を送ることできるようになりました。あとは、物を動かす導力や灯りの源にもなります。」
そういって彼が指さす方向に意識を向けるとLEDライトのような光源があった。どうやらそれをうごかしているのは電力ではなく魔力ということらし。
「水や火を生み出して生活を豊かにしたり、身体の汚れを落とす浄化の力などもありますが、一番の恩恵は、魔物から身を守るための障壁や攻撃魔法です。当時、魔物によって荒れていたキュウリアは、キューカンバ様とそのお弟子様たちの力によって、安全と平和を勝ち取ったのです。」
「なるほど。それはまた便利な力ですねー。」
頭に浮かんだのはローブを着た魔法使いが杖の先から炎や雷を出して魔物を倒すそんな光景だった。うん、RPGとかの攻撃魔法みたいなものだろうか?
「しかし、便利な一方で、魔法は非常に危険なものでした。ただの子どもでも魔法を使えば魔物を倒すだけでなく。」
「大人だって倒せちゃう?」
「その通りです。十年ほどで爆発的に普及された魔法の技術は、当初は人間たちの生活を脅かす魔物に対して向けられていましたが、ある程度の安全が確保されるようになると、その力は同じ人間に向けられるようになったのです。」
「ああ、なんかわかる。」
槍や斧と同じだ。獲物を狩ったり、開墾のための道具がいつしか戦争の道具になる。どこの世界でも人間は同じことを繰り返すということなんだろう。
「手軽に扱える強大な力は世界に別の意味での混乱をもたらしました。それを危惧したキュウリア様は、魔法にある制限をかけたのです。それが魔法少女システムと言われるものです。」
過程と理由はなんとなくわかる。だけど、なぜ「魔法少女」?
「続けても?」
「お願いします。」
嫌な予感がするけれど、聞かざるおえまい。
「魔法による戦争を危惧したキュウリア様は、自身の力を使って、異世界から「精霊」と呼ばれる高次元の存在を召喚されました。そして、精霊と遺志を通わせその力を借りることでさらに強力な魔法を行使する技術を作り上げたのです。その力は強大で「魔法」とは隔絶したものでした。」
「それ効果あるの?」
まんま兵器開発ですよねー。ミサイルでも作る気ですか?
「そのまま世に広まったならそうでしょうね。だからキュウリア様はその技術を使えるものを限定されました。力をもつにふさわしい意志と知性、何より愛をもった子に、その力を授けたのです。」
「免許みたいなもの?」
「そうです、その通りです。免許、これもキュウリア様がもたらした概念です。キュウリア様は弟子たちの中から、心清らかで気高き女子を何人か選抜して、精霊と意志を通わせる技術を授けました。そして、その力をもって、人を傷つける存在を、魔物、人問わず裁く権限を与えたのです。」
警察、いや正義の味方だ。しかし、
「なんで女子なんでしょうね?子どもにそんなことをさせるのはあれだと思うのですが・・・」
「それは、精霊との親和性によるものと言われています。精霊は純粋な遺志を好み、女性や子供の方がいしを通わせやすいのだとか。私としましては、精霊の力を悪用させないためにキュウリア様が何らかの仕掛けを作ったのではないかと考えているのですが。」
「なるほどねー。」
もっともな言葉で装飾されているけれど、なぜだろう。どことなく別の目的があるような気がする。
まあそれはさておき、なんとなく見えてきた。
「じゃあ、黒竜様、もとい俺は、アナタたちが召喚した精霊ということでいいんでしょうか?」
「そうです、その通りです。」
なるほど、それでこの反応なのか。
「本来、精霊は形を持たない存在と言われています。ですがこの世界で我々と意志を通わせる際は、動物の形をとると言われています。猫や鳥などこの世界の生物になっている精霊もいますが、中には説明が難しい神々しさをもつ精霊もいらっしゃいます。そういった存在は上位精霊と呼ばれ尊ばれます。あなたの放つの気配とその御姿は間違いなく、上位精霊のそれであります。」
ほめてもらうと照れる。
ともあれ、目が覚めたら知らない場所で、とんでもない存在に自分はなっているということは理解できた。転生したら○○でしたみたいなものだ。うん、そういうものとして受け入れてしまおう。
しかし、ここで最初の問題に戻る。どうやら、なんかすごい存在として召喚されたっぽいけど。この姿はどう見ても。
「卵だねー。」
「卵ですなー。」
お互いにうーんとうなるしかないわけで・・・。
この姿は、総統さんたちからしてもイレギュラーなことのようだ。。
「我らが召喚しようとしていたのは、ブラックドラゴンウイングスの象徴ともなっている黒竜様です。」
「黒竜様?」
「はい、我らの組織で代々語り継がれている上位精霊にして最強の竜種の中でも謎多き存在である黒竜さまです。」
なんだろう、すごい怪しい。家庭科のエプロン並みに存在が怪しいぞ、その黒竜
「黒竜様、どうか我らに魔法少女の力をお与えください?」
「なんで?」
物語の序盤はどうしても設定説明が長くなってしまう・・・
次回からはもう少し動きがあります。卵だけど・・・