18 卵、任務へ行く。
働く卵
「そうか、なら、実際に魔法少女の任務に参加してみてはどうだ?」
それはもっともな話だ。
「契約をするということは、魔法少女立ちの活動に力を貸すということだ。まあ、私のように施設管理をしたり、隠居したりというやつもいるが、基本は任務をして給料をもらうというのが多い。」
そういうと、資格とか派遣の登録みたいだなー。
そして、Sさんも魔法少女なのか・・・。
「なんか失礼な事考えてないか?」
「そんなことは、そんなことよりも任務ってそんな簡単に受けれるもんなんですか?」
「ああ、見習い向けのが寮には掲示されている。そうか丁度反対側だったな。」
ひょい俺を抱えてSさんが階段の反対側へ向かう。そこには大きなコルクボードに何枚も紙が貼ってあった。試しにその一枚を見てみると
依頼 「岩陰草の採取」D
期間 常時
内容 岩陰草の採取と納品 加工してある場合はボーナス
報酬 5束分の納品で1ダル
「1ダルとは?」
「この国の通貨だ。細かい分としてセントという通貨もある。1000セントで1ダルの価値だ。10セントでパンが一つ買えるくらいだな。」
「なるほど。そうなると1ダルは結構な金額で?」
「そうなるな、一か月分の生活費になる。」
パンで換算すると100分だもねんねー。
「ちなみに、依頼の横にあるのはランクだ。ランクはEから6段階あり、見ならないはCランクまでの依頼しか受けることはできない。」
「Bランク以上は、契約した魔法少女限定ってことですか?」
「そうだ、Bランク以上は狂暴な魔物の討伐や危険地帯での調査や採取。リランカクラスでも苦戦するかもしれない依頼だ。まあ、めったにないことだけどな。」
まるで某狩りゲーだ。きっと魔法少女にもランクがあるに違いない。
というわけで、何かの縁ということで、俺は「岩陰草の採取」という依頼を受けることにした。性格には、その依頼を良くしているというデイーについていくことにしたわけだけど。
「リュー殿。ここが「岩陰草」の採取ポイント、ストーン渓谷っす。」
馬車で揺られること半日。何気に寮から初めての外出であった。
「すごい深いねー。」
目の前に広がるのは底の見えない深い谷だった。向こう岸まではざっと50メートル。いくつも橋がかけられていて、人や馬車の往来は激しいが、谷の端っこは分からないほど長い。
「ここは、王都と周辺を分断していて、南の方は海につながってるらしいっす。」
なかなかに雄大な景色に、そういえば異世界に来ていたことを思い出す。うんそれだけすごい。
「で、問題の「岩陰草」ってのはどこに?」
「ここからも見えるっすよ。」
俺の質問にデイーが指さしたのは、谷の中腹?少なくとも崖や橋からはかなり降りた場所だった。灰色の岩肌の中に、鮮やかな赤と青の花が群生している場所があちこちに見えた。
「この依頼は、崖を降りて群生地から、岩陰草を採取するんす。」
「わ、ワイルド―。」
階段とかはしごなんてない、なんならロープを結べそうな場所もない。そして谷底はどこまでも深い。
「大丈夫と思うっすけど、谷の中は強い風が吹いてるからしっかりと結ぶっすよ。」
そういって、胸元の紐をきつく結びなおすデイー。今のおれはおんぶ紐のようなものでデイーの背中に背負われている。さらにはバリアで背負子を作ってしっかり固定する。
「ちなみにだけどさあ。今まではどうやって採取してたの。」
「岩のくぼみを足場に、登り降りしてたっす。魔物もいないのでいい訓練になるっす。」
命がけのロッククライミングでした。この子って、スポコンだと思ってけど、ノウキンだわ。
「そうなると、橋を渡って対岸へ行って、安全な場所を探す感じだね。」
「そうっすね。」
そこまで行ってニヤリと笑うデイー。うん、分かってるよ。
「合わせる、手前の群生地まで一気に行ってみる?」
「はい!」
元気よく返事をして、ためらいもなく崖へと飛び出すデイー。それは俺を信用してのことだ。ならばその信用に応えなければならないな。
「結構風があるね。」
ふわりと流されそうになるのを確認して足場と風除けのバリアをはる。デイーはそれを踏みしめて次々と崖を下っていく。
「いやー、やっぱりリュー殿の力を借りると身体が軽いっす。まるで空を飛んでいるみたいっす。」
50メートル向こうを目指したフリーダイビング。滑り台をすべるかのような気楽さでそれを成し遂げたデイーは、群生地を前にしてゴキゲンだった。
「特に強化はないんだけどねー。まあ、足場は便利ってことで。」
「そうなんすか?でもやっぱリュー殿はすごいっす。神様っす。」
俺単体では限られた範囲にしかバリアははれないし、自力での移動はできない。言葉通り、バリアはともかく、この運動能力はデイーの潜在的な能力と今までの訓練の賜物だろう。同じように足場を作ってあげても、他の見習いさん達はついてこれない。
「てか、魔法で空を飛べたりするの?」
「そうですね。リランカ様なんかは火の魔法を使って空を飛んでますし、魔法少女の中には空を自由に飛べる事を売りにしている人もいるみたいっす。」
「そのうち、デイーもなりそうだね。天翔ける魔法少女ってことで。」
「おっ、それいいっすね。かっこいいっす。」
言いながらも次々に足場を作り、岩陰草を採取していく。普段なら帰り道を考えて、それほどの量は確保できないけど、、今回は俺がバリアでカゴを作ればいいので大量に持ち帰れる。根こそぎはマナー違反なので、どっちにしろ数は限られるがそれでも、一日の仕事量としてはかなりの本数が採れたらしい。
「うーーん最高っす。この便利さは手放せなくなりそうっす。」
「それはうれしいねー。でもヱンペル先輩みたいに協力なカゴはないから、もっと慎重にね。」
暗に、それでいて隠しきれないラブコールだが、俺はやんわりと断ることにしている。優柔不断と言えばそうだけど、デイーやエーベルを見ていると、契約が必ずしも成長につながるとは思えないからだ。
「つれないっすねー。」
「まあ、とりあえず帰ろう。今度は方向が分かるから近道できそうだし。」
谷の上まで登り、岩陰草を袋に詰め治す。行きは馬車だっただが、デイーと俺なら帰りは走った方が速い。
「はいっす。新記録をだしてみんなを驚かせるっす。」
すっかり慣れた調子で、空を走り抜ける俺とデイー。その姿を見た通行人たちの間で、空を走る新人魔法少女のうわさが広がることになるが、それはまた別の機会に。
ちなみに、採取した岩陰草は50本。50ダルという大金を報酬でいただいた。おれは取り分として10ダルもらい、Sさんに家賃代わりに納めてもらった。
「もっと、もらってもいいと思うっす。これはリュー殿おかげっすよ。」
「いや、そうでもないんだよねー。」
リュー「たくさん稼げた―。」
空を飛ぶ魔法って憧れますけど、その原理がずっとわからないんですよねー。
ア〇アンマン見たく、手足から炎をだすとか、今回みたいに空中に足場を作るイメージ。風をまとうってのはイメージが・・・。




