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15 卵は初めて命の危機を感じる。

 寮内での鬼ごっこ

「ははは、卵か―。なるほど、今日は茶碗蒸しを追加だー。」

 だって、Sさんの目が完全に食材を見る目なんだもん。アメフトのランニングバックのように俺を抱えて走り回るデイーを、お玉片手に悠々と追い回す寮母さん。なんか漫画チックで彼女は歩いているようにしかみえない。なのに、距離が開かずに徐々に追い詰められている。

「デイーさん、とりあえず外へ逃げよう。中庭ならセーフとかじゃないの?」

「それは、ギリセーフっす。夜間訓練とかする子もいるっすから。」

「なら。」

 力を貸そう。そう思ったときに、俺を抱えるデイーの手の力が強くなり、その速度が目に見えて上がる。

「ほう、デイーやるじゃないか。いい身体裁きだ。」

 Sさんは感心していたが、次の瞬間には俺たちの背後に迫っていた。おかしい、予備動作がなかったぞ。

「ひ、ひいいいい。」

 振り下ろされたお玉は俺ではなく、デイーをねらったものだった。ただ、その一撃の迫力はリランカさんのあの炎よりも凶悪に見えた。

 パリーン。

「は、まじっすか。」

「デイー、走って。」

 とっさに展開したバリアーは、お玉の一撃であっさりと砕け散った。昼間に踏み台にした経験からその強度を体感していたデイーの衝撃はそれなりだったが、俺の言葉に即座に切り返して、廊下をかける。

「やるじゃないか、その玉子の力か?」

 ゆらり、初見のバリアーに驚いて数秒キョトンとしたSさんだったが、ゆっくりと振り返り目を輝かせる。

「これは掃除が大変そうだな―。動物持ち込んでじゃないぞー」

 寮内に響く声にびりびりと身体が震える。なにこれやばい。

「Sさんは、動物嫌いっす、あと寮を汚す子には容赦がないっす。」

 そういうレベルじゃないと思うよ、あれ。部外者を問答無用でしばきたおすモンスターじゃないの?

思えば寮で出会った瞬間からこっちをロックオンしてたような。いや、さすがにそれはないか?

「まーてー。」

 そして、そんなことを言っている場合じゃない。逃げないと、まじで茶碗蒸しにされる。緊急事態だ。

「デイー、フォローするから、外まで行こう。リランカさんのところまで逃げるんだ。」

「りょ、了解っす。」

 あれは完全に狩る者だ。俺はバリアーで、デイーの身体に自身を固定し、同時に幾つかの足場を作り上げる。

「つかー。」

 デイーは全力でその場から駆け出すと同時に、Sさんの腕が何もない空間を薙ぐ。ちょっと待って今の捕まえるってレベルじゃなかったぞ。

「ほほ、器用だなー。」

 感心して足を止めているすきに、少しでも距離を離したくて、俺は上へ上へと足場を作る。狭い廊下を抜けて玄関ホール。吹き抜けになった2階へと駆け上がり、正面の大きな窓をバリアーで押しあける。

「いっけえーー。」

 ギリギリの配置の足場を見事に駆け抜けたデイーの運動能力と俺への信頼は感動的だった。プロのスプリンターもびっくりな高速移動と立体軌道。外へ飛び出した瞬間の浮遊感と解放感は素晴らしかった。

「だが、無意味だ。」

 なぜ、アナタがここに?

 と思ったときには、先回り(空中にいた)Sさんによってデイーは地面へとたたきつけられた。

「ぐえー。」

 とっさにバリアをクッションしたから見た目のダメージはないけど。頭への衝撃と落下の衝撃でデイーは気を失い、驚いた俺はバリアーを解除してコロコロと転がってしまう。丁寧に手入れをされた中庭は転がる卵のブレーキとはならない。こうなるともう駄目だ。昼間に見習いさんたちと一緒に試したことだが、俺は卵なので、1人ではこれ以上動くことはできない。

「さーて。なんだお前は?」

「できれば話し合い。もとい自己紹介をさせていただきたいんですが、一応リランカさんの知り合いです。」

 ぶんと振り下ろされるお玉をバリアーで受け止めながら俺は、必死に対話を試みた。

「リランカ―、あのおっちょこちょいか、寮生時代は夜中に寂しいって私のベットに潜り込んできたアイツか?」

「まじすか、そんなキャラなの、あの人。」

「そうだよ、今でこそ、ランク4位なんていってるけどなー。入寮してすぐは、寂しいっていってヒコロクの旦那のところに家出したり、私に泣きついたりと甘えん坊だったんだぞ。」

「ああ、それで、ヒコロクさんと仲良しだったんだ。」

 がん、がん、がん。

 和やかな会話の最中も振り下ろされるお玉は、バリアにヒビを作っている。このバリア、リランカさんの爆発をしのいだ時よりも分厚く頑丈なものをイメージしているんだけど・・・。

「しかし、固いなー。抵抗する食材は初めてじゃないが。ちょっとお前素直じゃないぞ。」

「そりゃ、命がけですからねー。」



 

リュー「ガタガタガタガタ。」

Sさん「いい運動になった。だけど、最初に言えよ、まったく。」

見習たち「話を聞いてくれる雰囲気じゃなかった。」

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