14 卵は命で、玉子は食材。
食用と勘違いされる卵
「ただ、リュー様って、お風呂にはいってゆで玉子になったりしないっすか?」
なるとしたら、温泉玉子だねー。そこの女子、ぼそっと、美味しそうとか言ってるの聞こえているから。
「興味レベルで聞くんだけど、俺って食材に見える?」
「ああ、魔物食材っすね。ジャイアントバードの玉子とかはリュー様ぐらいの大きさっす。一つで100人分ぐらいの卵焼きが作れるっす。」
ダチョウの3倍かーすごいなー。まあ、俺の場合中身があれとは思わないけど、大きな卵ってロマンがあるよねー。
「寮母さんとかなら、食材扱いするかもしれませんわ。」
「みんなで説明しましょう。そうすれば。」
ちょっとまってなにそのフラグ。あれだよね、食材と間違えれたりしないよねー。
「おうおう、帰ったかガキども。とりあえず半分は風呂で、半分は飯を食え。今日のも旨いぞ。」
そんなワイワイとした様子で訓練場から歩くこと数分。見習たちの寮の見た目は、どこにでもありそうな学生寮だった。塀で区切られた庭を挟んであるアパートメント、大きな扉を開けるとと大きなエントランスホールがあり、そこには数名の見習いらしき少女たちと、妙齢の女性が立っていた。
「Sさん、ただいまー。」
「今日は、A班が先にゴハンですよね。」
「おう、今日もたらふく食いな。」
交わされた言葉は和やかなもの。だが、なぜだろう見習たちが俺を隠すよう陣形を組んでいるような、デイーもシーとゼスチャーをしている。
「今日は一層がんばりましたから、お腹がすきましたわ。」
「おや、エーデルもいつも以上に張り切ってるな。それだけ身になったようで、結構結構。」
三角巾とエプロンの下は真っ赤なジャージ。片手にお玉を持った姿は肝っ玉母さん。ただ見た目はかなり若いし、なんというか力強い。鑑定しなくても分かる。この人、かなり強いなー。
「あれは、ダメっす。」
「お料理モードだから話は聞いてもらえないわ。デイー一先ずリュー様をお風呂に隠すわよ。」
おい、待て。なんでそんな野良猫をこっそり運び込むようなことを。
「い、いくすっよリュー様。」
緊張で手汗がでているデイーたちの雰囲気に俺も気を使って黙る。
ぴしりと緊張した空気。誤魔化すようにエーデルがこちらを睨んでいる。見た目は訓練で何かあってそれを引きずっているようにも見える。
「なんだなんだ。お前らまた喧嘩したな?魔法少女を目指すなら喧嘩じゃなくて競え、足の引っ張り合いなんてしてるんじゃないぞ。」
大した演技力だよ、君たち。だけどさあ。
「で、デイーが持っているそれは何だ?まさかと思うが。」
「ちっ、逃げなさいデイー。」
「ここは私たちが食い止めるわ。」
「リュー様をお守りしなさい。」
目ざとく見つけたこの人もだけど、見習いたちの行動もおかしい。
「お前ら―そういうことか。また性懲りもなく。」
怒声、それを聞いた瞬間にはお玉が高速で振るわれてエーベル以下数人の見習いたちが頭を抱えてうずくまっていた。
「くっみんなすまないっす。」
その様子に駆けだすデイー、そして倒れながらも女性にしがみついて足止めを図る見習い達。
「いや、まてなんで奥へ逃げる。」
逃げるなら外へ逃げろよ。
「もう門限を過ぎているので外にでたら怒られるっす。」
「なんでそこは律儀なんだよ。」
状況があまりに突然で、カオス過ぎるんですけど。驚いている間に見習いさんたちがお玉で沈められてる。
「畜生を、寮に持ち込むなーーーー。」
ただ、俺は運ばれるだけだった。自力で動けない卵なので。意味が分からなくても流れるという悲しき運命・・・。
いや、おかしいだろ。そう思ったのは、全力で寮内を連れ回された後で、タンスに隠れて一息ついたときだった。
「えっなにあの人?ペット厳禁なのここ?」
「そ、そうじゃないっすけど。」
タンスの中に隠れて震えるデイーに俺は尋ねる。
「エマ・エルデス・エスコパル、この寮の管理人で、みんなからはSさんと呼ばれてるっす。」
うん、こういう時でも質問に答えられるあたり君は優秀だよ。
「で、でも思い込みが激しい上に、大の動物嫌いなんです。前に他の子がこっそり野良ネコを連れ込んだときも、あんな感じに暴走してたっす。」
「先に言えや。」
寮母さんにも、俺にも。
「いや、精霊はいいらしいっす。動物は寮を汚すからNGらしいっす。」
バリ。「「ひいい。」」
そんなことを言っていたら扉が派手にけ破られる音がして、俺たちは声を漏らす。
「に、逃げるっす。」
「いや、ちゃんと話し合ったほうがいいと思うよ。誤解だし。」
転げるようにタンスから飛び出したデイーに、至極まっとうな事を伝えるが、デイーは足を止めない。まあ気持ちは分かる。
「ははは、卵か―。なるほど、今日は茶碗蒸しを追加だー。」
リュー「怖い怖い。」




