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9話 解説は審判が

「コウタうまいことやったな〜。最初めっちゃ押されてたからそのまま押し負けるかと思ったよ〜……別に負けても良かったけど」


「それはあんまりだろシン、あんだけ頑張ってた子に」


「ヤベ聞かれてた? まあ別に、聞かれて困ることじゃないからいいんだけど……そう言うテッペイだって、勝てないって思ってるんじゃないの?」


「思ってないさ。あと、思ってたとしても言葉に出しちゃだめだろ」


 へいへい――昔からの仲でも、良くないとわかっていながら言葉にするクセ、直さないのはどうかと思う。そう思っていながら言えないこちらは、言葉に出さなすぎだろうかとテッペイはさらに悩みこむ。殴り合っている青年とナツは、青年による氷の拘束で拮抗しているように見えるが実際は六分、いや七分三分といったところか。


 ナツは八つの現竜のうち魂竜に属する能力者、基本的に魂竜は現竜の中で一番身体能力が低いかわりに魂の透視という相手の感情の変化を大まかに読み取り、それにより動きを予測することができる。これにより魂竜はサポートや情報収集を得意とするものが多い。そしてその基本能力に追加で、魂に関する能力が乗ったり乗っからなかったりするが――、


「あまり調子に乗らないでッ!」


「それは見えるでしょッ避けたら間合(まあ)い埋めてッ」


  ヒカリは数秒先を予知、というより視界を()()()事ができる。その間動くこともできるが、予知中は視界が今の時間軸と異なり、その不一致な感覚のせいで予知中は言葉によるサポートが限界。発動条件は、前の予知を行い終えたら発動可能。

 未来を見ている事を相手に悟られてしまうとそのまま動きを変えられ、見た未来とも異なってしまい有利が取れないという結果になってしまうという難しい能力だ。

 その為、本当に危険な時以外は予知でなく第三者視点の目としてサポートしている。


「残念うちには本場の予知があるんますッッ!!」


 防戦一方の苛立ちか、ナツはバールを大きく振り下げるも空を切り逆に青年のパンチがカウンターと言わんばかりに懐へ伸びていく。青年に勝ちが傾くかと思いきや、ナツは空いた片手で拳を受け流し、再度代わり映えのしない殴り合いが始まる。


 ナツは例外的に、身体能力が並の現竜と同格かそれ以上ある。さらに魂の透視が苦手な代わりに降霊が行える。降霊は精神侵食の危険があるというのがこちらの認識だが、それにも関わらずそれをして問題が視えないのはナツの過去に何かしらあったりするのだろうか……と、勘ぐりを入れてしまい話が逸れた。

 話を戻すに、その降霊によりナツは戦闘向きな霊を降ろし、他の魂竜が持たない身体能力で魂竜ながらも近距離の戦闘を可能にしている。


「やっぱ何度見ても、噛み合いすぎて恵まれてるとしか言えないね〜なっちゃんは」


「その言葉で片付けていいモノじゃない気はするがな……」


 ただ欠点を上げるなら、降霊の切り替えが()()()()()()()だから、そうする余裕もない程の近距離戦に持ち込められれば、切り替える余地もなく押し切れる。ナイフ投げがうまくても力の使い方がなってない状態であれば、彼は勝利の女神を氷で捕らえたと言っても過言ではない。青年がシンの考えた作戦をうまいこと誘導でき……違うな、なんだかんだ作戦がハマってよかったと言うべきか。


 ナツがどうと駄弁っているうちにナツが目線をヒカリにやり、少し間を置いてからバールの大ぶりをする。ヒカリが口を開き何か言おうとするのと同じ瞬間、青年は大きく体を逸らし間合いがまた開く。


「ッぶね!」


「ちょッ! まだ言ってなッ」


「「あっ」」


 慣れによる油断か、はたまた集中力の欠落か。いや、ナツが頃合いを見計らい、狙って作った隙。彼らの経験の差が明確に出た動きの差だ。

 大ぶりを避けるなら可能な限り最小限でかつ、ラッシュを止めない動きが必要となる。そんな要望が多い行動を、ヒカリの補助無しではまだ荷が重い。ヒカリが言うことが確定したのを確認し、同時に攻撃することによって青年の判断のみでの動きに制限させた。

 ナツの目が閉じられていく。そして口元は……口角が少し上がった気がした、



 氷の剥がれる音がしたすぐあと、岩に鉄製の棒をぶつけたような音が耳に鳴り響く。



 すぐ青年の爆発的な跳びを思い出し反射で壁を見るが何も無い。目線を戻してみると青年の前の床が抉れた状態で青年は防御体制のまま突っ立ち、ナツは青年の後ろでへたり込んだヒカリにバールを向けた状態で立っていた。


「いつの間に……」


「な~んかびっくりして明後日の方向てたから一応教えてあげよー」


 どうやらシンの説明によると、俺が別に目線をやった隙にナツが近距離向きの子を降す。結果、拘束を無視しそのままバールで振りながら突進。正面切って勝とうとしたが、コウタが無意識のうちに最初の制限なし身体強化をして身を守た。ナツは押しきれないと割り切り、守りに徹してるだけの彼を無視してヒカリを狙えば勝てると判断を下し回り込んだ。惜しいものを見逃した気がするがまた見れるだろうとテッペイは自身を諭し言葉を返す。


「わかりやすくどうも……つまりヒカリ達の負けか」


「そうだね〜わかりやすく負けたね。まあ三日であの実力なら合格でいいでしょ、とりあえず試合止めてきて審判さん」


 はいはい――審判とは名ばかりの、始めと終わりの合図以外は遠目で見るだけというなんとも馬鹿らしい役目。それを押し付けられたからと言って今更なのだから文句はない。審判にしてはヒカリ達の勝利を少し願ってしまったことに少し恥じる。


 それにしても、シンの気分とその時の運で決まる入社試験がこれとは運がない。いや、ナツ以外の社員がうちに居ないタイミングでの入社を鑑みるに元から試験相手はナツで決まってたんだろうか。ま、シンにも何かしらの考えあっての事かもしれない。


 思考を巡らせながら彼らの側によると、何故か彼らがずっと動かずにいることに気づく。見ていた場所からは近くだ。近くと言っても歩いてくる場合少し距離が空いている、そこから着くまで全く動かないというのは少し違和感があった。


「惜しかったな青年!」


 そう言葉を投げかけるも返事がない、かと思えば糸の切れた人形の様に倒れ込んだ。とっさに体を支え顔をこちらに向けさせる。どうやら気絶しているようだ、力の負荷かはたまた緊張が切れたのか。とりあえず青年が最優先ということが確定し、あとのことはシンに頼んでとほか二人に目をやる。


「……お兄さん連れて行くなら私も行く」


「僕は、あとで診てもらいます、はい……」


「了解だ、安静にしとけよ!」


 はい――そう呟いたナツの瞳には、驚愕と共に、死への恐怖が宿っていた。

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