8話 先輩相手、なんとかなるか
そうこうあっての三日後。俺は喧嘩を売った。厳密には清さんが売ったんだけどそれは置いといて。喧嘩兼試合のちょっと前、清さんとヒカリで会議をしつつ色々お世話になり愛着が湧き始めている道場、試合する会場でもある白い空間で駄弁っていた。
そして俺は考えていた、対戦相手について重要なことを――、
あの子、男と女どっちなんだ? バール持って服装はフードにポケット多めのズボン、服装はありがちながら様になっているのは顔がいいからだろうか。初めて見た時は気にする余裕なかったけどよく見るとなんとも……なんともかわいいって言えば良いのか? けどかっこよくもあるんだよな。金髪に美形であの格好って、アニメでしか見たことないぞ。ってヒカリ肘打ちやめい嫉妬か?
そんなことを思ったせいか一発お見舞いされ、確かに少し見すぎたかもしれないと思いつつ目線を戻すと、彼女? 彼? と目が合ってしまう。流石にそらすのは頂けないと少し頭を下げると向こうが少しムスッとした顔をしながらも会釈してくれた。
ヒカリが手を振ってるの見て返すあたりいい人そうではあるな、まあこのあと実質的な殺し合いをするんだけど……
「そういえばあの子の名前なんです? 聞いてないなって」
「あれ言ってなかったっけ? 確かにコウタには、戦うんだからって能力とか戦闘面についてばかり話してたたかも。あの子は心頭 懐。みんなからはナツとかなっちゃんって呼ばれてるよ」
コウタと名前で呼んでもらえるほど仲良くなったと浸りたかったが、横からすごいものを感じ取った。
なっちゃんという言葉とともに殺気を感じるようになった方向――目だけそちらに向けると、顔色は変えずただ目線のみシンさんにやり、ナイフが見えそうな殺気を投げつけていた。
先程加点したポジティブポイントを更地にされ、そのうえで今からあんなヤバそうな人とやるのかという不安に苛まれながらもシンさんが背中を押してくる。
「色々頑張ったんだから大丈夫大丈夫。全部出しきってきな」
良いこと言ってはいるけど……
まあ、はい――と少しガク付く形の出場となってしまったが、ヒカリとなら大丈夫でしょうという自信が俺にはある。戦いの不安以上にヒカリからの嫉妬の念のが今は苦しい。とりま、戦い前に挨拶しといた方がいいかな?
「よ、よろしくおねがいしま~す……」
「よろしくです」
こないだとなんかテンション違うけどこっちが素なのかな?気まずい無言タイム入っちゃ嫌なんだけど。
やっぱり入った無言タイム、ヒカリが落ち着いてきたごろに定位置の肩に乗せ指定された場所へ立つと、相手も俺に向き合う形で立った。距離は十五メートルほどだろうか。そこへ審判役をしてくれるテッペイさんが間へ立つと――、
「両者用意は良いですね? 試合の勝ち負けは相手の降参、もしくは戦闘不能で決まります。うちには優秀な医療職員が居るんで死ぬことはないですが、覚悟は決めといてください。では――」
「名前は聞いてますよね、呼び方はナツで良いです。この間はいきなりすいません。ただこれとそれは別で負ける気もないので――」
「――開始ッ!!」
「手加減はしませんッ!!」
部屋に響く開始の合図――シンさんに言われた時空耳だと聞き流したクソみたいな試合ルールをもう一度聞き、納得いかない感情を込め足元に落とすのは氷。人に向けても問題ないレベルにしたかった氷の塊がそのまま地面と接触する。
同時、落ちた場所を中心に霜を床に張り巡らせそのまま範囲を広げてく。この霜の部分に触れたら足止めを食らわせられるが、そうもいかないのはわかってる。
あと一言言いたい。ギリギリで喋られちゃ返しが思いつかんでしょうが! このアホっ子め!!
俺が足元に氷を落とすコンマ数秒、たったこれだけでナツは十メートルの距離を縮め残り五メートルちょい。どうせ足止めもひとっ飛びだろうし、せっかくできるようになった雪の生成による妨害案も初っ端トップギアにされて破綻してる。なら後ろに引きながらあとは、いつも通りのお約束。
「前の左斜下!」
ヒカリ様々による予知能力の押し売りそのうえ、今回は避けるんじゃなくて当てる側! こちらは楽しい神ゲーで?! リズムに合わせてダンカッカッってか!
ナツが行くであろう場所へ制御がマシになった身体強化の拳を置きに行く。下がった為に体制を崩した腰の入ってない拳にしろ、最低限の効果はある。予想通りの場所に来たナツは拳に当たる直前、バールを間にねじ込まれた。ちゃんと受け止められ、バランスを崩している俺達は自分の拳の反動で後ろに飛んでいく。ほぼ打ち上げられた状態の、そんな倒してくださいと言わんばかりの俺達を前に瞬きしたと思うとポケットから素早く何かを取り出し投げてくる。
「ナっちゃんに氷!今すぐ!」
人に向けちゃダメでは?! ――そんな思考が過ったが約束を思い出し言われた通り生成する。少しずつ生成されている氷、その最中に氷へ硬いものがぶち当たる。多分鉄製の飛び道具か何かだろう。試合で使うものではないと愚痴りたいが、試合ルールの時に何となく察していたためもう諦めた。
「氷はそのまま落としてダイジョブ! ただ距離は絶対離してね!!」
そんなの見りゃ分かるわ!――どこからともなく出そうになる叫びを仕舞い込み、地面に氷をぶち当てる。丁度ナツの前へ落とすと、瞬時に霜が張り靴を凍らせ止足めに成功する。予想通り、向き不向きがあるのが伺える。今なら逃げられずにラッシュが挟めると判断し、ヒカリに飛び降りてもらった後俺だけ突っ込む。
隙を与えなきゃ安全だってなもんだ! 足が動かせなきゃ腰も入らない、その上やばい攻撃は後ろで見ているヒカリに頼んで持久戦。これが最強フォーメーション!! 俺前ヒカリ後ろ作戦! ダサいのは承知だが強い……はず…………
三日間でできるようになったのは能力に頼った戦闘だけじゃない、肉弾戦もだ! その成果は『初心者ながらも悪くないで賞』にまでに急成長を遂げられた。芯で捉えることはできなくても掠りさえできれば万々歳。――このまま、押し切る!
めっちゃ今更ですけど、名前全部カタカナに統一しますね。すいません。