7話 言葉通りの能力テスト
勇気はない……けど覚悟はできてるってなもんで。ならあとは、勢いと可能性を掴む運だけ。
思考を加速させ可能性を無理やり掴みに行くためヒカリを前方面に肩から投げ降ろし。あとは後ろから追いかけてきている鉄平さんに向き直って走り出す。鉄平さんと目が合い向こうが歩幅を狭める。少し怯んでくれたかな?
「おっ」
できないならできないことを否定しろ、否定すればそれはできることだ!――そうやってなんちゃって言い聞かせをして、力を込めて地面を蹴り進める。足がふれ、床が沈む。
刹那。地面が破裂する音と共に視界が反転し、空中に投げ飛ばされる様な体勢のまま鉄平さんに手を掴まれていた。
「すっごい加速だったよ青年! ただ俺が捕まえてなかったら君の身体が大変な事になっていたかも。気をつけな!」
そう言いながら鉄平さんが下ろしてくれた。少しふらつき鉄平さんが支えてくれる。相当無理した感じかこれ?――体を確認しても外傷は無いけど全身が節々痛むな。
どんなもんかと後ろを振り返ると鉄平さんがいた場所からだいぶ離れた位置まで飛ばされてるし、床がすごいことになっているし。
ヒカリは大丈夫だろうか。――そう思ったのもつかの間、清さんがヒカリを抱えながら。床の亀裂、その影を利用しヘビの様に移動してきた。
「いや~すごいね。制御は大変そうだけどこれならやっぱ行けるでしょ」
「すごいのは清さんでしょ。なんです? その動き」
ちょっとした小技みたいなものさ――そう謙遜してくる。足が大分プルプルでそろそろ座りたい。そんな感じのことを言うと、清さんは二度ほど手を叩く。するとたちまち床の亀裂が消え、元の白い床となった。そこにシーツを置きお菓子をだす。――ヒカリと清さんはこんなお菓子食べて夕ご飯大丈夫なのか?
「とりあえず、今のでコツ掴めた?」
「まあ、なんとなく? ただあんなので善戦できますかね?あんな動きした後だと制御意識しすぎて上手くいくかな?」
制御抜きにしてもあの程度で、というよりあんな直線運動なんて回避されて終わり。それどころか外したら俺が死ぬ、あたっても諸共死ぬ、キャッチされなきゃ死ぬような攻撃? で、勝ちを取るのは無理なんじゃ。――あとヒカリは俺の口にお菓子を入れようとしないでほしい。今真面目モードだからちょっと待とうか?
ヒカリにチョップしながら清さんに問うと、わかっていないなと人差し指をノンノンと振ってくる。
「厳しいかもしれないけどだからこそ、やりようによってはだよ。もし本番であんなのやったら、相手諸共壁のシミ。ならシミにならなくて済む能力で同じことをすれば良い。君が見たことあるのでなかったかい?」
「見たことある能力か――」
「氷のことでしょ! 多分!!」
「正解。その氷の能力が使えれば、しかもあの蹴りと同じ出力が出せれば。一撃ノックアウトできるよ」
「なるほど、だいぶ希望が見えてきました!」
清さんがグッドサイン出してるけど清さんってやっぱちょっと天然入ってるんじゃ。とりあえず氷の能力がどんなのだったか思い出しながら練習すればいけるかな?
――あっ。
横でなにか思い出した声がした、鉄平さんがいい案でも思いついたんだろうか? そう思いそっちに顔を向けると、何故か大の大人が申し訳無さそうに手を上げている。
「あの〜」
「どうした? 鉄平」
「清、お前捕らえられそうだった氷の現竜に合わせること考えてるだろ?」
「そうだけどなんでそんな――ってあ! そういや鉄平、見逃しちゃったんだっけ?」
「うん……」
あっちゃ~ ――と頭を抱えてるがまるでわからん。何が何がと困惑していると鉄平さんが説明してくれた。
「あのあと、あの二人を捕らえに倉庫に戻ったんだけど。実は清がシャッター側から、俺が裏口から行ったら女の人が出てきてどっかいかないよう掴んだんだけど――」
「痛いって叫ばれて手離しちゃったんだって、まあしょうがない。ただ、能力を具体的に想像するならいた方が便利だっただろうに」
鉄平さんは申し訳ないと頭と気が沈んでいるが、こうだったかもなんて考えても仕方ないし。
「大丈夫ですよ、元々頭の中で想像して再現する気でいたんで問題なしです!」
「ならまあとりあえず、氷の勉強がいい? それとも想像のほうが強かったりするのかな?」
「さっきの感じ、あやふやのまま想像したほうが具体的に想像するより力出るっぽいんで想像でやってみます」
「オッケー、けどまずは休憩ね」
「はい」
△□*△□*△□*△□*△□*△□
三十分が経ったて力が入るようになったあと。ヒカリや鉄平さん、あと天然な清さんがお花見のように俺を見ている中。手始めに俺は氷を出していた女性の真似をしていた。が一向に出ない。冷気はなんとなく出せているが、うまいこといかない。
「どうすれば良いんですかね〜ホント」
「そうだな、僕以外の二人は身体関連だからあまり手伝えないし。ん〜」
「清さんってなんか投げる系のあります? 氷飛ばすとか、炎飛ばすとか」
「そんな殺意増々のはないけど、黒いのなら出せるよ」
立ち上がり手を差し出したと思うと、手のひらの前に黒い玉が出現した。手に力を込めそれを前に押すように動かすと、玉が前方へ飛んでいき壁に当たる。それは墨を入れた水風船の様にその部分を黒く染める。
「こんな感じ。あそこを影の空間と繋げて物を出し入れできたりする」
「ふぇ~」
「あと、さっき言ってたけど、あやふやな想像でやってるって言ってたけど、もう少し具体的に氷の脅威だった部分だけでも想像すれば上手くいくんじゃない」
「やってみます」
いやだった部分、いやだった部分。当たった部分が覆われる、触れていたら別の物とか関係なく凍らせる。氷の人は動きに少しの予備動作があった、手から氷を流すような動き。手の前にある物を、触れずに押し出すような動き。
手を前に突き出し、少し脱力する。氷が集まり形を成す。それを、脱力した分力を込めながら前に押し出す!
形成された氷はブレることなく、形を崩すことなく壁へと飛んでいき当たった。その着地地点は壁がえぐれ、とどまるところを知らないのか薄い氷で覆われていく。壁を覆い、天井を覆い、床を覆う様に動いたあと。彼の立つ床の前でとどまった。
「できたみたいで良かった」
「流石にこれは人に向けちゃダメじゃ……」
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