4話 敵が倒せるなら最高の作戦
数分前、少女と組んだ作戦。それは――
「策は一つ、お兄さんの能力が要だよ!」
「……? なるほど?」
「というのも。あの氷使いさんの氷、本人は気づいてるかわからないけど、少し特殊だと思う。それを逆手に取ったら突破できるかも」
「ふむ?」
点と点が繋がりそうで繋がらない言葉。それらの答えは何処へと頭を捻らせてると、なぜわからんと少女が眉間にシワを寄らせ言ってくる。――ほぼ寄ってないが言ってくる。
「氷を使ってフェンスを突き破ったの覚えてる?」
「まあ、破ったのはゴリラだけど……」
「……そこは置いといて。氷でフェンスを覆って砕きやすくしたにしろ、あんな簡単に砕けるわけ無いじゃん?」
「でもあのゴリラならできそう」
話が進まないよ! ――と少女が目で語るため黙って話の続きを待つ。
「……進めると。氷で包んだ物の耐久力を無かったことにし、氷分の耐久力だけに抑え込む。……と思われる氷をここにある大きな棚に当てるよう誘導して倒す!」
「誘導? え? ワタシ、イッパンジンデスヨ?」
「がんば!」
△□*△□*△□*△□*△□*△□
「残念、武器はコレなんだ」
少女の無茶に運良く答え、謎の達成感と生き残ったという喜びで笑いが漏れる。俺は大きく振りかぶった拳を氷漬けになった棚の骨組みへと落とした。
氷は砕け、共に骨組みも砕け散る。バランスを崩した重量棚は前へと傾き、なんちゃって誘導によって少し移動していた女性の元へ、身を預けに行くように倒れていく。自分も巻き込まれそうではあるものの、端っこであるからして無問題。素早く巻き添え範囲から退いた。
粉塵が舞い、鉄製の物をコンクリートに叩きつけたやかましい音が頭に響く。
あの程度で死ぬことはないと思う、てか現竜は絶対にあの程度で死なん。それ以上に思うことは――
「死ぬかと思った……――てか手い゙ッッッづぁ゙あ゙‼」
ごれ指折れてんじゃないの? まじで。あとはあの少女の、てか名前聞いてないな今更だけど……後で聞くか。面倒だし嬢ちゃんってことで。今のところノリで嬢ちゃん側付いてるけどどうしよう、流石に自分から飛び込んだ厄介事だし最後まで面倒見るかな〜。
そう考えていると、倒れた棚の上から軋む音がする。強く蹴る音が一度鳴ったあと、敵か!――と思う気持ちを消し飛ばし、そうでなくデジャブを感じさせるモノが倒れた棚から飛び出してきた。ただ前回と違う点は、その時と比べ大人な対応ができる点だ。嬢ちゃんも謎の成長を物理的に遂げてるが、俺も同じく謎の強化パッチを受けている。今の俺なら受け止めることぐらいお茶の子、さ・い・さ・い――
「がべしッッ――!」
「あへッ! なんでフィーバータイム終わってるの?」
「こっちが聞きたいよ……とりあいずおりで」
あっ、はい――と言って俺の腹を椅子にするのをやめ、一難去ったためか二人共気が緩んでいるがこれでいい気がしてきた。
作戦の答え合わせとしては単独行動させた敵の能力を逆手に取るってだけだったけど、上手く行って良かった。ゴリラが近くにいると、あの怪力で棚の拘束兼戦闘不能の攻撃を無効化されそうだったからな。
「倉庫の事務所にあった電話を放送用のマイクにテープで巻いて、電話とスマホを繋げる遠隔スピーカー。それで私を事務所内に居ると思わせて実際には横のドアから倉庫外へこっそり出て後ろから覗く! よく思いついたね!」
「いや~褒めたって出てくるのは奢りって単語だけだよ〜」
「結構嬉しいやつだよそれは」
そう笑いながら嬢ちゃんは言い返してくれる。――めっちゃ平和だな、数秒前戦ってたとは思えないほど平和だ。ただあとはゴリラが残ってるんだけど、今の状態じゃ絶対勝てないんだよな。まだ完全には気が休まらない。とりあいず落ち着くためにもう少し話すか。
「そういえば名前聞いてないから――」
考えるより先に動くってのは自分の口で経験してるが、理解より先に体が動くというものは初めて体験したが、なかなか気持ち悪いものだ。
質問しようと嬢ちゃんの顔を見たとき、眼の前で死ぬ人を見た人の顔と、自分死んだなって顔が同時に浮かび上がっていた。ヤバそうだなっと理解した時、すでに嬢ちゃんを姫様抱っこで抱え走ってた。身体能力がまた上がっている気がするが、人間離れした動きをしてないあたり火事場の馬鹿力ってとこだろう。
嬢ちゃんを抱えたままさっき倒した棚に身を隠そうとするが。覆せない速度と力の差、ごまかし利かない力が俺の背中に直撃し、俺ごと嬢ちゃんも吹き飛ばされた。
「うわあ‼ ――ってなんで吹き飛ばされてたのに二本足で着地できてるんだよ!」
嬢ちゃんを抱えたまま後ろから吹き飛ばされ、一回転したと思えばぎこちないとはいえ自分の足で着地した。
ざずがだね゙――とは言ってくれるが三半規管がやられてる死にかけ嬢ちゃんはまあ置いといて。フィーバータイムは終わってもラッキーは継続か?――などと思っていても、足を止めることはない。運よく立て直し急いで横のドアを使い外へと脱出する。が、さすがは事務所破壊RTA保持者。今度は倉庫の壁を破壊し目の前に登場した。
「てめえらが厄介なのは分かった。だが俺への対処法はないだろ、あとは殺すだけだ。――って逃げんじゃねえ‼」
後ろの方で何か聞こえるが、殺されるのが分かってるんだから話聞かずに逃げるだろ。てかまじで――
「なんで俺が竜に追われてんの⁈」
「首突っ込んでくれたからでしょ♡」
「うっさい‼」
「まっけど大丈夫。着いたって」
「ほう?」
言ってはなんだが、このゴリラが最初っから後先考えずに突っ込んでくれば秒で捕まったんじゃと思わずにはいられない。そんなゴリラをどうにかできるのかという疑問が頭をよぎるがやはり考える余裕はないらしい。ゴリラの影らしきものが嬢ちゃんを抱えた俺を背後から覆う。死を彷彿させる殺気が真後ろに来るが。先ほどと違い、嬢ちゃんには余裕が伺える。
「死ねぇ‼」
「もう安心だ青年! スーパーキーック‼」
その掛け声で後ろを振り返ると、漢にパンチを繰り出し何かの仮面を付けた中年男性がいた。
「あ~。外れだね」
「失礼な! あれ? ヒカリちゃん身長伸びた?」
「年取ったよ――ッて女性になんてこと言わせるの!」
「え~勝手に言ったじゃん。あ、てか青年やばい顔してるけど大丈夫なの?」
あれ? 言葉が耳に入ってこないな? けどこの感じ敵じゃないのねよかった、てかやべっ。安心したら疲れが……
そうなりながら後ろに倒れ込むと、嬢ちゃんの体重がもろに腹へ直撃し魂が抜けるような衝撃と共に意識を手放した。
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