3話 面倒くさいはお互い様
「あの2人が入って行ったのはここだよね?」
「けっ、あのクソガキ。見つけたらミンチにしてやら!」
「無視……まあ良いけど。というかこんなとこ入ってどうするつもりなのかな。早く終わらしたいんだけど」
「知るか」
捕獲対象の女の子は数秒先が見えるらしいがそれ以上の情報はない、ただそれだけならやりおうはある。問題は、その対象が手を組んだ青年。重量棚が四列程あり、二列目と三列目の間に私が進んで行き、仲間がずかずかとそれに続く。少し暗く、奥が見えない。
能力がしれないし探すのが手間だし――と思っていると、右の棚の下、先ほどの青年が倉庫で見つけたのか消火器と共に出てきた。
「いやがったあのガキ」
「手は抜いてたけど、それでどうにかなると思う?」
「いんや? 無理かもだけど」
そう切り返した青年は、俯いてた顔を上げニヤリと笑う。
「バカの頭は冷やせるなって」
「「はっ、言ってくれる」ね」
青年の顔めがけ氷を飛ばすと青年は避けながら身をかがめ左にあった重量棚の下に逃げ込み、棚の骨組みの隙間から消火器を噴射してこちらの視界を遮ってくる。
完全に視界を遮断される前、咄嗟に氷を飛ばす。硬いものと当たる音がしたのを考えると棚の骨組みに当たったのだろう。思わず舌打ちが漏れる。
「やっぱり近距離戦は苦手だわ」
少し消火器の粉が晴れると青年の顔が恐れに染まっていた。実際に目と鼻の先で死の可能性に相対して覚悟が揺れるのか、氷漬けになった骨組みを見ながらしりもちをついている。少しの恐れが命取り、そう戒めるように横から私の仲間の拳が彼を捕らえる。
呆気なかったな。
『――けり上げて!!』
マイクを通したような声とその反響によって起こる高音の雑音。いきなりの出来事で私は両手で耳を塞ぎに行ってしまい同時に少し身を引いてしまう。逆に青年はその言葉で目が覚めたのか、棚の骨組みを蹴り上げ拳の追撃を避ける。
倉庫の奥に逃げ延びた青年の代わりに追撃を受けた棚は、貫くことこそなかれど底が凹み、衝撃がコンクリートにまで伝わったのか地面にヒビを入れた。
「どうなって――」
苛立ちを覚え辺りを見渡す。青年のうしろ、さっきと比べ目が慣れたのか奥の方がよく見える。倉庫の奥はただの壁かと思いきや倉庫内事務所? のようになっている。倉庫が事務所からでも見えるように――そして安全の為か――室内にも関わらず窓が付いて見える。その中の一つ、一番端の部屋に人影が見えた。プツリと何かが切れた気がした。
かっ――
「ったるい真似すんな!」
終わらない仕事をやらされている――そう思いながら、久しく会う同僚とこんな事をやらされているんだ。命をかけ行動してるこっちと比べ、捕獲対象は安全圏から協力者を使って足止めとな。私の言葉が少し荒くなるのも、投げやりになるのも仕方がない。
ただ言葉通り……いや少し違うか。まあ、八つ当たりで捕獲対象に氷を投げてしまっては、だめだ。
そう思っても、一度投げてしまった氷は止まらない。今の私の思いと真逆の結果が真っすぐ飛んでいき、人影の映る窓ガラスを突き破った。同時に頭が真っ白になる。
私終わったな、どう報告しよう。
『左の棚下!』
今度は声を抑えたのか、おかしな反響もせず声が響く。私の仲間を見ると棚上の物を投げ青年を追い詰めようとしている。それを青年が指示に従いながら避けた。
青年へ指示?――
「なにぼさっと立ってんだ! いきなり奥を攻撃したと思ったら今度は棒立ちか!? え゙!?」
捕獲対象が死んでない? ――仲間の掛け声で止めてしまった思考のギアをまた回すと、頭の中で現状整理を始める。
さきのスピーカーの事を考えると対象は無傷、そのうえ協力者を目視できる場所にいることがわかる。安全圏で見える位置は事務所内の窓付近、だとして。私は近接向きじゃないし現状一番いい行動は――
「ねえ! あの事務所の何処かに捕獲対象がいる可能性が高いの! あんたなら壁壊して最短で確認できるでしょ、男の子の方は私が引き受けるから行って!」
いきなり稼働しだした私に少し驚く顔をしたかと思えば、即座に私の意図を理解したのか仲間は青年を無視し事務所に走り出す。
流石に青年も壁破壊タックルを受けては死ぬと判断したのか正面には立たない。ただ、無視はさせないとばかりに消火器の持ち方を変え、青年は消火器の噴射口を持ちブラックジャックの要領で消火器本体を私の仲間の顔めがけ振るう。
が、仲間は気にせず突進し事務所の壁へと突っ込んだ。壁は爆発音のような騒音と共に粉砕され、仲間が室内を二度三度と周りを見渡しすと、見つからなかったのか次は隣の壁を破壊しだし最短で確認しに行く。それを呆然と眺めている青年に氷を飛ばす――
『しゃがんで!』
もやはりかわされる。面倒と言うかムカつく、早く捕まえなきゃ援軍が来るかもというのに手厳しいものがある。青年を説得してみる? ――そう思い彼の顔を覗くもすでに覚悟を決めている様に見える。
対象を捕らえるまで時間を稼ぐしかないな。
私は一息置き、口を開く。
「――ねえ、なんであの子と手を組んでるの? 奨談所の新人? じゃないならこっち側ついて手伝ってほしいだけど、お金も出すよ」
私は親指と人差し指でお金マークを作る。青年は全く気にしないどころか、それ以上に私の言った事が気になるのかそちらに頭を傾げている。そうだんしょ?――と青年は私が言った事を繰り返す。どうやら無関係の一般人の様だ。青年は言葉を返す。
「とくに理由はない! 手を組んでるのはあの子が先に手を組んでって言っ――言って来てないわ。まあ先に肩組んだ人優先ってだけだよ。」
「それだけならいいんじゃない?」
「肩組まれた、と言うか肩車してただけなのに攻撃してきたあんたらは怖いから仲間にはならん。当たり前だろ」
もう少し時間を稼ごうと私は口を開くと、声を発する前に青年は持ってる消火器の残骸を投げつける。軽く避け、いきなり何? と目線を飛ばす。
「もういいだろ、やるぞ」
その言葉が合図だと言うかのように彼は走り出す。現竜の基礎スペックと比べても、少し身体能力が高いあたり能力はシンプルな身体強化だろう。ただ未熟なのか仲間程の強化はない、時間稼ぐ程度なら無理なくカモれる。
「もうさっきやったこと忘れたの?」
私は地面に手を付け氷で地面を覆い始める。氷はどんどん前に進み、覆われて彼の足を捕らえに行く、青年はそれを踏んだらどうなるか理解しているのか真正面から来るのを止め、左の棚に置いてる物を投げ始めた。
「そんな事しても一瞬で凍らせれるよ!」
手を地面から離し氷を広げるのを止めると、今度は手を前へと伸ばし投擲物に向け氷を放つ。撃ち落とし視界を確保する。即座に青年を確認すると、最初にいた棚下に向かっていた。
さっきから左に避けてる。最初の棚に向かってる。無意識のうちに攻撃されても大丈夫な方に逃げてた?
思えば一瞬だった。何らかの武器がある可能性。こちらの弱点を突かれる物の可能性。優先順位は青年からその謎の物に。氷を棚めがけ飛ばし棚の裏にあったとしても凍らせるよう徹底的に氷化させる。青年がその場に行く前に、凍らせた。場の有利は取ったと確信するも、彼の謎にホッとした顔が確信をブレさせる。
「残念、武器はコレなんだ」
そう笑顔をあらわにすると、青年は大きく拳を振りかぶり、氷漬けになった棚の骨組みを――砕いた。
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