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前編:この喉が掻き鳴らす、後悔の慟哭を

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!


 「勇気」がテーマということで、愛と勇気だけを携えて皆様の夢を守るために往くような気概で執筆させていただきます。

 それでは、本編スタートです!

 思い出すのは、夕焼けに照らされる街を一望できる校舎の屋上。

 当時から立ち入り禁止ではあったが、そこは今より緩い時代のこと、抜け穴というか抜け道のひとつやふたつは放置されていて、誰にも聞かれたくない話とか、誰にも見られたくないことをするのにはもってこいの場所だった。


 そして、俺──蟹澤(かにさわ)智樹(ともき)も。


美佳(みか)、急に呼び出してごめんな」

「ううん、平気だけど。どうかしたの?」

「あのな、美佳」

「うん?」

「俺、美佳のこと好きだ」


 毒々しいまでに鮮やかな夕焼けが、影を色濃く刻み付ける真冬の屋上で。ずっと言えずにいた気持ちをようやく伝えたのである。

 そのとき、美佳の顔は────。


 立川(たちかわ)美佳(みか)とは長年の付き合いがある。よくいう幼馴染みってやつだ。どこか無防備で危ういところのある美佳を放っておけなくて、いつも俺が面倒を見ていたから、傍目から見たら兄妹みたいに見えていたかも知れない。俺も、正直最初は美佳のことを妹みたいに思っていた。

 だが、いつからだろう。

 俺のなかで、いつしか美佳の存在がどんどん大きくなっていた。妹のように思っていた美佳を、ひとりの女の子として意識するようになっていた。

 だからといってすぐに向き合い方を変えられるわけもなく、俺はそのまま美佳のことを妹として扱い続けた──それよりもずっと前から向けられていた、美佳の気持ちから目を背けて。


 ようやく踏ん切りがついたのには、いくつかの理由があった。

 ひとつは俺たちが高校卒業を機に違う進路へと進んでいくこと。俺は少し離れた地域の大学へ、美佳はこの冬になって急に大学受験をやめてしばらく地元に残ると言ったのだった──その理由は、教えてもらえていない。

 もうひとつは、最近美佳のことで変な噂を聞いたから──情けない話だが、俺が自分でこの気持ちを認められたわけじゃない。いろいろな外的要因が重なって、半ば……いやほとんど焦燥感に急かされるように美佳への気持ちを口にしていた。


「美佳のこと、ずっと考えてた。登下校中も、授業中も、休み時間も……いや、学校にいる間だけじゃないんだ。気付いたら家にいる間も、ずっと美佳のことを考えてたんだ」

「そう……ずっと、ってどれくらい?」

 美佳の声は、あくまで静かだ。

 夕陽を背負う表情は、窺えなかった。


 俺が意識し始めたのはいつからか……少なくともこの冬を迎える前、いや夏が終わったくらいではあった。そのことを伝えたとき、美佳は「そうなんだ」と小さく呟いて。


「そうなんだ。そうだったんだ……」

 夕風にさらわれてしまいそうな微かな声。

 誰かに告白するなんて初めてだった俺は、返事を急かしたいような気持ちと、そんなことしてはいけない予感もに苛まれ、何も言えずにただ手持ち無沙汰で立ち尽くすだけで。


 そんな俺を試すような沈黙は、「なーんだ」という場違いなくらい明るい声で消された。


「ずっと両想いだったんだね。……言うの遅いよ、智樹」

 美佳の顔は、いつもと同じ笑顔に見えた。

 少なくともその一瞬だけは。

「ごめんね、もう……わたしはやめといた方がいいよ」

 冬の風に涙が散っていく。

 嗚咽混じりの声に、潤んだ瞳。

 さっきからけたたましく鳴っている、美佳の携帯。

 それを掻き消したくて美佳にいくら呼びかけても、携帯を見た美佳の物憂げな顔は晴れなくて。


「じゃあ、もう行かなきゃだから。ごめんね」

 最後に笑顔を取り繕って、美佳は去っていく。


「今更、そんなの聞きたくなかったな」

 風に吹かれて掻き消えた小さな声は、確かに涙に濡れていた。勇気を出すのが遅すぎた俺には、その涙を拭う資格なんてなくて。

 閉まっていく鉄扉の向こうは、きっと俺にはもう立ち入れない場所だった。


 宵闇に飲み込まれていく夕焼け空は、俺の叫ぶ声なんてあっという間に風に流してしまう。それでも、俺にできるのは喉を()らすことだけだった。

 前書きに引き続き、遊月です。本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪


 突然ですが、いわゆる「負けヒロイン」について皆様はどう思われますか? 私は最近、雪の降る街で起きる奇跡を描いた往年の名作アニメを観ていたのですが、やはりさすがは泣きゲー文化黎明期の傑作と名高い作品のアニメとあって、終始感動しっぱなしだったわけです。特に終盤でメインヒロインにあたる娘が「…ボクのこと、忘れてください…」と口にする辺りの場面などは、遊月が感情移入しながら観てしまうタイプなのもあってかついついティッシュを取り出したりしてしまったものでしたが、それはそれとして。

 一応恋愛ゲームを原作としたアニメだと、ちゃんと個別エンドを描いてループする形式にしない限りは全ルートを一本のシナリオに束ねて、結果として主人公にとってのヒロインに据えられるのはひとりになるわけなので、結果的にいわゆる「負けヒロイン」という概念が生まれてくるのですが(原作ではちゃんと個別ルートがあるから負けヒロインなどという概念はありません)、この「負けヒロイン」がしっかり失恋して且つそれを振り切る気配の見えるお話というのはいいものだなというのを、ふと思ったんですよね(最初に観たのは●アニ版でしたが、後から観た東●版でわざわざそのシーンを描く1話が入っていたのを知って、製作陣に愛されてるなと感じたりしました)。いや、報われるのに越したことはないのですが、報われないにしてもその描写がめちゃくちゃ丁寧だったりすると、それはそれで素敵なものだなというのを痛感したのですという後書きなのでした。


 閑話休題。

 なんと今年で小説家になろう20周年なのだとか! おめでとうございます!!

 私が当サイトを利用し始めたのは7年ほど前、大学を卒業してからの自作発表の場を探し求めた末のことでした。当時は右も左もわからないWeb字書きだったので、平気で1話10000字超えの投稿などをしていたものでしたが、それに比べたらWeb向きに書けているのかも……と自分を甘やかしたくなったりして(笑)

 20年ですって……20年前というと、私はまだゲーム少年していた頃かも知れませんね。友人宅に入り浸って自宅にないハードのゲームを遊んだり、……本当にゲーム三昧だったかも知れませんね。


 それはさておき(閑話休題とは)

 勇気というと、困難に立ち向かったり、自分の性癖を現実のものにしたり、信頼してくれている幼子の背中を階段で押したりというものを思い浮かべがちだと思うのですが、こういう方面の勇気もあるよねと思って筆を録りました。

 遅すぎた勇気……私の好きな言葉です。


 残すは後編、あと1話お付き合いいただけましたら幸いです!

 また次回お会いしましょう!

 ではではっ!!

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