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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第四章 大烏の都
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誰の思惑-1

 オニの一族に生まれた少年、エルム=ソムニフ。彼の休日は屋敷で目を覚ますところから始まる。


「ふわぁ……」


 エルムは大きく伸びをすると、上下ともにチェック柄のパジャマを脱ぎ捨てた。普段は使用人が着付けを行っているのが今日は違う。私用の外出のため、人払いをしていたのだ。

 紺色の作務袴(さむばかま)を身に纏い、街中へと繰り出す。冷たい空気が肌を刺すが、エルムにとっては常である。

 エルム曰く、カチリとした制服よりも(これ)の方が苦しくないとのこと。


 街角の暖炉から白い息が上がる様子にエルムは口を大きく開けた。


「お、やってるやってる!」


 暖炉を炊く店からは煙草と酒の臭いが流れている。早速エルムは店内へ。


「らっしゃい。また来たのか? 兄ちゃんも悪い人だな」

「貴族としてじゃなくて、ただのエルムとして来てるからね。こんな娯楽があれば溺れるさ」


 エルムが視線を移す先には緑色の机を囲う四人の男たちの姿。短冊よりも小さな(パイ)をいくつか並べている。


「はいそれロンで。18000点だ」

「だぁーーーッ! やられた!」


 点棒を奪いガッツポーズを決める者。それに対して頭を抱える者。やがて懐から財布を取り出して金を渡す。

 ここは所謂、違法賭博の場。エルムは犬歯を剥き出しに豪快に笑う。ちょうど空いた席に座り、牌を手元へ引き寄せる。


「今度はお前か。よし、酒を一杯こいつへ寄越してくれ!」

「酒が入ると頭が回らなくなるし、俺は後で飲――」

「まあそんな寂しいこと言うなって。俺とお前の仲だろう?」


 酒に酔っているためか、男はエルムの肩を組みながら話す。

 運ばれてきた酒に一口つけるエルム。その様子に男はうんうんと顔を頷かせた。配牌(ハイパイ)を眺めてエルムは唸る。


「風の噂で聞いたんだけどよ」


 男は突然、話を切り出した。


「何だ?」

「お前の通い先に、魔王のお墨付きが新しく入学したらしいじゃねぇか」


 牌をつまむ手が、止まる。


「……どこからそんな情報を?」

「そこは詮索して下さんな」


 情報源について男は何も答えない。そして話題を掘り返す。


「あの金にがめつい魔王が期待する人間だ。そりゃ皆の興味もひかれるってもんさ」

「そうだね」


 エルムは何気ない顔で頷くが、口元は堅い。そんなエルムの様子に男はニヤリと笑う。


「なあ、少しでいいから学園の情報を流してくれよ」

「どうして俺がそんな役割を?」

「どうしても何も、お前はここに来るからに決まってんだろ」


 ゲラゲラと笑いながら男は話すが、エルムにとってこの話題は面白くない。おまけに手元の牌もつまらない。


「あの三人には何か秘密がある」

「……人数まで知ってるのかよ」

「言っただろ、詮索はするなって」

「それは悪かった」


 しかしながら、三人の『秘密』についてはエルムも気になるところであった。いくら魔王のお墨付きとはいえ、()があり過ぎるのだ。たとえ知識は身につけることが出来たとしても、時折見せる要領の良さなど、育ちが垣間見える場面はいくらかあった。それでいて貴族の出でもないのだから、より謎は深まるばかりである。


「対価は何だ?」

「おお? この取引に乗ってくれるのか? じゃあ金貨で三百枚はどうだ?」


 どの視点から考えても胡散臭い。だがあの三人の謎と言われれば好奇心が刺激される。編入初日から違和感があったのだから。三人は何かを隠している。

 それは間違いないとエルムも踏んでいた。


「そこまでして情報が欲しいのか?」

「ああ」


 男は頷く。ちょうどエルムが(チュン)を捨てたところで男は呟く。


「あ、それロンな」


 エルムは声にならない絶叫を上げた。

 気がつけば負け戦の連続となり、金を賭博に溶かす。エルムの財布は軽くなり、涙がポロリと流れる。軽くなった財布を持って賭博場を出ると、エルムは呟いた。


「情報を得られ次第、か」


 また財布を絞られるのかと思いつつも、普段なら味わえない雰囲気に口元は緩む。


「出店で何か買おう」


 並ぶ出店の一角。焼き鳥の売場があった。しかし財布のボタンを開けても中は銅貨が数枚だけである。


「はぁ」


 何も買うことが出来ずに思わず溜め息が出る。諦念して帰路に着くエルムだった。

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