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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第四章 大烏の都
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加護-1

 学園生活は思いのほか順調で、シーナ達三人はそれぞれの楽しみ方を見つけていた。

 シーナは実践的な魔法陣について、隙間時間に図書館で調べる。マグは昼休みのひとときに食堂のメニューを日替わりに完全制覇を目指す。

 そしてノリアはというと、


「ふふっ」


 安らぎのある現在の生活に表情を緩めていた。家の食卓に並んだ食事は交代制で準備している。

 食事に夢中なマグとは対照的に借りてきた本を熟読するシーナ。本を読む傍ら、ティーカップを口元へと運ぶ。

 身も心も休まる時間に、ノリアの口角も必然と持ち上がるというもの。


「どうしたんだノリア?」

「ううん、なんでもない」


 こんな時だけ感覚の鋭い実兄(マグ)の気遣いに若干どころか、かなり呆れた様子のノリア。「もっと別のところで活かして欲しい」と思うも、なんだかんだ安堵している自分がいる。

 樹海でシニカから学ぶ時間も良いものであったが、『黄昏の魔王』のお膝元で暮らすのも悪くはない。対面に座る対照的な二人にノリアは柔らかい笑みを浮かべていた。


 そして翌日。彼ら三人にとって試練の日々が始まる。


「今日から精霊術についての授業を始めるが、皆準備は良いか?」


 教壇に立つのは老年の男。フードの付いた厚手のローブと、右手には洗練された短い杖。左手でたくわえた白髭を弄っている。

 生徒の視線が自身へ向けられたところで高々に宣言した。


「しっかりと学ぶ姿勢のある者には、それに相応しい授業となるよう務めると誓おう。今日から精霊術の講義を担当する講師のゲオルグだ。よろしく頼む」


 老年の男――ゲオルグは生徒全員の顔を一通り眺めると黒板へ視線を移す。チョークで手早く黒板に何かを書き込んでいる。

 どことなく魔法陣を連想させるが、図形やルーンの類いではない。強いて言うならば、言語のような『何か』であった。


「まさか、精霊文字……」


 誰かの呟きが妙に響く。カツカツと音を立てていたチョークの動きが止まった。


「さすがに名前ぐらいは聞いたことのある者もいるか。精霊文字はその言葉通り、精霊と意思疎通するためのものだ。これからお前たちには精霊と意思疎通できるようになってもらう」


 生徒は不安から期待の声まで様々だ。大きく咳払いをしてゲオルグは再び皆の注目を集める。


「では、まず精霊文字についてから――」


 こうして精霊と会話するための下準備とも言える授業が幕を開けた。




「はぁ」

「珍しいなシーナが溜め息なんて」


 授業が一コマ終わり、長い廊下を歩く。どこか憂いのある表情のシーナの隣では購買パンを口へ運ぶマグ。


「あんな授業の後なのにマグはよく平気でいられるわね。王族だから精霊の威圧に耐えられるとか、そんなことでもあるの?」

「いや、そんな話は聞いたことないけど。そもそもあの精霊は威圧してたっけか?」


 講義の最中、ゲオルグに呼び出された精霊は何故か()()()を威圧していた。心臓が冷たい手に握られるような感覚に、未だ動悸が残る。


「……あの精霊が私にだけ、威圧したとでもいうの?」


 シーナの顔色は青ざめていた。大きく髪が揺さぶられ、慌ててマグに支えられる。頭の血が引けてしまったのだろうか、表情に覇気がない。


「精霊に喧嘩を売った、とかでもあるのか? いや、俺の知る限りそんな一面は無いよな」


 呼吸はどうにも浅く、次の教室――そのドアの手前でシーナは倒れてしまった。


 ***


「……ーナ、シーナ!」

「シーナさん!」


 誰かに呼び起こされている。目を覚ますと見知らぬ天井があった。そしてシーナを心配するマグとノリアの顔が視界に映る。

 部屋に並んだ複数のベッドと区画を分けるように配置されたカーテン。シーナはここが医務室だと理解した。


「だ、れ? って、二人ともどうしたの?」

「どうしたもこうしたもねぇよシーナ! 突然気を失ったんだよ」


 ぼうっと視線を下へ移し、自身の手を見比べる。

 シーナの左手、その薬指には指輪の如き紋様が刻まれていた。無論、皮膚を焼いた訳でもない。

 気づけばそこに模様があったのだ。

 手のひらを宙に(かざ)し、左右交互に確認してみる。


「これは、指輪?」

「それは加護の証だ」


 シーナの疑問に答える声。その声には聞き覚えがあった。


「ゲオルグ先生」

「精霊が儂に話してくれたよ。シーナさん、君に精霊の加護を与えたと」


 白髭をたくわえた老男はシーナへ伝える。話の内容にマグとノリアは目を見開いた。


「っ!? すごいじゃねぇか、シーナ!」

「っ、流石シーナさん!」


 目をキラキラと輝かせている兄妹とは対照的にシーナの理解は追いついていない。

 何がすごいことなのか、加護とは何なのか。シーナの頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。


「……ゲオルグ先生。加護とは一体どのようなものなのですか? 私、精霊にあまり詳しくなくて」

「加護のなんたるかについては、そこの二人に聞くといい。詳細については日を改めて説明するとしよう」


 そう言ってゲオルグは部屋を出ていった。


「俺たちも教室へ戻ろうか。授業はまだ終わってないだろうし、途中からでも出ておきたい」


 マグの催促にシーナは頷く。


「そうね。体調も良くなってきたことだし、私も戻るわ」


 加護のことは一旦忘れ、シーナ達は教室へ戻るのであった。

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