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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第四章 大烏の都
36/50

魔王の望み-3

 甘酒は一瞬だった。

 舌を優しく包み込む甘みに、嚥下が止まらない。あっという間に飲み干すと、シーナたちは口元を拭う。「ぷはーっ」という擬音が聞こえるくらいの飲みっぷりだった。

 三人の様子をしっかり見ていたリンフィアは満足気である。

 それからまもなくして、リンフィアは自分の街を案内し始めた。ヨークインは気候的に寒暖なため、煉瓦(れんが)製の住居が多く散見される。屋根はとんがり帽子のような形状をしており、屋根に登ったならば滑り落ちてしまいそうだ。

 沢山の住居が並ぶ雪景色の中、十二単の美女は後ろを振り返る。


「では改めて、ようこそヨークインへ!! あては街の代表、『黄昏の魔王』リンフィア=アンカーや。これからもよろしゅうな」


 と、自身の(あざな)を名乗った。




「ここがお前たちの学んでく場所や。どうや、迫力大きいやろ?」

「「「わぁ……!!」」」


 三人は思わず、口をあんぐりと開けてしまう。

 立派な屋根はすっかり雪を被り、建物の全貌はまだ見えない。手前に見える建物だけとって見ても、かなり豪勢な代物であった。街並み揃って煉瓦造りであるが、より細かいもので組み上げているようである。

 三人が見て分かるくらいに網目は細かい。


「ここで俺たちは学ぶんだ」


 マグの両目は普段以上に輝いていた。当然、妹のノリアも期待に胸を膨らませている。

 そしてシーナはというと──。


「──はわぁ」


 何とも言えない感嘆の吐息を漏らしていた。この街に到着してから眼前の光景は打って変わらない。しかし、シーナを魅了する『何か』があったのだろう。


「フッ」


 マグの口から思わず含みのある笑みがこぼれてしまった。しとしとと雪は静かに降り積もる。


「ッ!?」


 マグの失笑は思いの外大きかったようだ。それはシーナにも聴こえていたようで、白い景色に反して赤面させた。髪の一房に隠れた耳も真っ赤である。


「な、なによ! なんでそんな目で私を見るの!?」

「いやー、特に何も無かったよ?」

「そこはせめて言い切って欲しかったわ!」


 突然、言い合いを始めたシーナとマグにノリアは(こめかみ)の辺りを片手で押さえていた。

 ──即ち、()()()()()と。


 ***


 黄昏の魔王が治める街──ヨークイン。商人でもあるリンフィアだからこそ、大通りは露店が多い。屋根の上は雪色だが、その下は活気づいていた。通行人は色とりどりの衣服を身につけている。


「これってここで流行ってるのかしら?」


 露店に並んだ赤や青、深緑や黒色の長い布を指さしながら、シーナはリンフィアへ尋ねた。リンフィアも大烏の姿では身につけていた上に通行人は殆どの者が首に巻いている。


「あれはマフラーちゅうもんや。ふむ、三人分やな。ちょいと買ってくるからここで待っておれ」


 リンフィアは自ら露店に向かい、数枚の銀貨でマフラーを購入した。赤、青、緑の長い布を瑞々しい腕に抱え、シーナたちのもとへ戻る。


「ほれ、首に巻いてみ? とても温まるはずや」


 言われたようにマフラーの中央を折りたたみ、首に回す。片端を反対側につくった輪っかに通し、苦しくない程度に緩めた。


「確かに温かいわね。寒い地域だからこその文化なのね」

「せやせや。商人たるもの市民の流行から地域の気候、王侯貴族の欲するものについて敏感でなきゃならん」


 カツカツと笑うリンフィア。初めてシーナから知識を得た瞬間同様、目新しい話に三人は開眼する。


「そろそろこれから住んでもらう場所へ案内するで。まず学園が大通りの先っちょにある。ここまではええな?」

「「「はい」」」

「よし、こっちや。着いて来な」


 三人が頷くのを確認すると、宿舎の場所を案内した。大通りの立派な建造物から横に逸れた道の先。


 共同生活を(まっと)うできるような家がちょこんと建てられていた。決してボロボロという訳でもない。細々と手入れの入っている建物のようだ。


「築二十年や。大切に使うんやで? しっかりと休みな。授業は明日からや」

「「「はい!」」」


 三人は大きな声で頷く。

 するとリンフィアは赤いマフラーを身にまとい、大烏の姿へと変わる。(くちばし)をクイッと動かすとそのまま上空へ飛翔した。


「……私たちも家に上がりましょうか。なんたって明日からすぐに授業が始まるんだもの」

「そうだな。空の旅が思いの外大変だったし、早めに休みたいところだ」


 溜め息をついて背中を丸めるマグに対してノリアはジト目を向ける。


「もうちょっと、体力つけたほうがいいんじゃないお兄ちゃん?」

「……あ、 ああ。そうするよ」


 容赦の無い一言にショックを受けた様子のマグだったが、「学園生活を終えた頃には鍛えられているはず」だと根拠の無い自信を見せる。

 ノリアは改めて重たい息を吐く。




 魔法薬から魔法陣の何たるか。貴族の儀礼から商人のスキルまで。

 ──学びの日々が遂に始まる。

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