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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第三章 人攫いの鯨
29/50

毒は時に金なり-3

 コツコツと数回のノック音。軽い雑音に重たい瞼が持ち上がる。


「ノリアか?」

「うん、そうだよ。ただいまお兄ちゃん。体調は大丈夫?」


 久々に見たノリアの顔に口元が緩んだ。額に乗せられた濡れタオルをノリアが交換すると一瞬表情が強ばる。しかし、筋の緊張もすぐに和らいで目を瞑った。


「ありがとう」


 目を閉じたままマグは礼を言う。そして、弱々しいマグの様子にノリアは一言告げる。


「うん、またね。お兄ちゃん」

「また、明日。来てくれるのか?」

「…………もちろん」


 頷くまでに妙な間ができてしまった。

 実際問題、病人一人分の看護ならシーナだけで十分だろう。しかし、マグの弱った言葉に対し首を横に振るなど出来なかった。


「ありがとう」

「ううん、気にしないで」


 ノリアは軽く手を振った。

 扉の外に出る。ノリアはようやく手中の(ぬる)いタオルを握りしめることができた。

 マグの様子から分かった事実。信じられない内容だが、身体中のいたるところが信憑性を高めていた。


 ──この状態が続けば、やがて死に至る。


 涙が出ない。悲鳴が出ない。しかし嗚咽は止まらない。壁に背を預け、そのまましゃがみ込む。ノリアは今、どんな表情をしたらいいのか見当もつかなかった。


 しばらく思考を止めていたノリアだったが、ふと疑問が浮かぶ。


「シーナさんはそれを分かってて薬を作っているの……?」


 いつまで逃避していても意味が無い。そのようにノリアは自分を鼓舞する。シーナ本人に聞きにいくという行動から始めようと重たい腰を上げた。




 小さな家屋には、鍋の前で薬湯をぐつぐつと煮出すシーナの姿。


「あ、シーナさん」

「ノリア。そんな暗い顔してどうしたのよ?」


 後ろを向いてすぐに気がつく異変。ノリアの表情。


「少し、お聞きしたいことがあります」


 ノリアの妙に畏まった台詞にゴクリと喉が鳴る。シーナは攪拌する手を止めて、近くから椅子を持ち出した。


「それで、何を聞きたいの?」

「恐らく、お兄ちゃんが助かる見込みは低いと思います。シーナさんはそれを理解していて薬を調合しているんですか?」


 シーナは何も答えない。しかし、シーナもノリアと同じような表情をしていた。己の力不足にやるせない気分はシーナも同じだとノリアは気づく。


「……私にも、手伝えることはないの? シーナさん」

「それじゃあ、フィーロとアーレが別の薬を探しているから修治(しゅうじ)の準備をお願い。毒性の強い植物なの」

「うん、分かった!」


 ノリアは背中を向け、小屋を飛び出していった。


 ***


 鉄製の鍋に水を張り、底を熱する。部屋の湿度を一定に保ちながらノリアはトリカブトの根を湯通しする準備を進めていた。ノリアの展開した火の属性陣が鍋底で輝く。


「おーい、持って来たよ!」


 アーレの大きな声。ちょうど毒草が届いたようである。


「ありがとう、フィーロさん。アーレさん」

「これらの根っこ、どこに纏めたらいい?」

「じゃあその辺に纏めておいて」


 鍋のすぐ横で風呂敷をほどいた。トリカブトの根にまとわりつく土汚れを洗い流しすぐに湯通しする。

 一度に熱するのではない。徐々に温めていくイメージである。しばらく加熱を続けていると泡が根皮の表面に顔を出す。ノリアは根の表面から完全に泡を出し切るまで鍋を熱し続けた。

 それから数時間後。

 陽光で干上がったトリカブトの根が出来上がった。竹(ざる)の上に乗せ、すぐに移動する。作業中のシーナへ笊の中身を渡すと、生薬の状態を確認して首を縦に振っていた。


「問題なさそうね」


 シーナの手元にはエルフ少女二人から受け取った残りの材料──粉末混合物が袋の中に入っている。熱を通したトリカブトを粉末に加工して、すべて混ぜ合わせれば完成。体表の熱を下げつつも芯の部分を温めてくれる、魔法のような薬だ。


「夕食の直前に、ノリアが持って行ってくれる?」

「……シーナさんは行かなくていいの?」

「私はいいの。ノリアが薬を飲ませてあげて」

「うん、分かった」


 ノリアは何故シーナが遠慮したのか分からない。「シーナの手でマグを救うべきだ」と考えていたために、一歩引いた様子のシーナに疑問を抱く。しかし、意図を聞き出すにはハードルが高い。ノリアはそれ以上詮索することなく場を後にした。



 お盆の上に薬湯を乗せ、マグの部屋まで持ち運ぶ。


「お兄ちゃん、入るね」


 数回のノックとともにノリアは入室する。マグは静かに寝息を立てていた。呼吸の度に胸が上下しているが、一度咳き込むとしばらく続いてしまう。

 その様子を見ると、どうにもその先が怖くなる。

 ノリアは薬湯をそっと枕の傍に置き、マグの横に座った。


「お兄ちゃん、起きたらこれを飲んでね」


 優しく声をかける。

 声が届いたのか、ノリアの一言にマグの頭がこてんと傾く。しばらく寝顔を眺めた後、ノリアは部屋を出ていった。

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