表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第三章 人攫いの鯨
26/50

麦と門と冬

 ランシアがウラレの葉を探して遠出する中、シャノゲの根を掘り出すシーナの姿があった。シャノゲの根にはいくつか膨れている部分がある。首飾りから数珠だけを取り出すように、塊根(かいこん)を採取した。


「ひとまず採れるだけ採れたわね」


 土塗れの掌の上には米粒大くらいの楕円形。何かの種子みたく断面は白い。シーナは(ざる)に乗せて水で洗う。土汚れが全て流された後に残るのは灰白色。米粒では無いが、艶々とした表面は米を想起させる。


「イネみたいだけど、違うのよね」


 手元にあるイネの穀果と見比べては首を傾げるシーナ。シャノゲの塊根を乾燥させたら、残るはウラレの葉を手に入れるだけである。

 ランシアからの(しら)せは来ない。余程探すのに苦労しているのだろうかと、シーナは想像した。


「もしそうだとしたら、大樹海に戻ればいいのに。水竜ならその方が早いんじゃないかしら?」


 そう、独りごつ。


「シーナ、戻ったぁーよ」

「っ!?」


 ピリピリとした圧力。風が怯えているような気がして後ろを振り向いた。


「ところで、ランシアもここに来たのかーいぃ?」


 眼前には『孤高の魔王』ジン=パナクス。桃色の双眸が紅く発光する。


「もう一度聞くよ。渦潮の魔王ランシア=トラクもここに来ていたのかぁーな?」

「ぇ、ええ、来て……いたわ」


 得体の知れない圧力にシーナはゴクリと喉を鳴らす。ジンは溜め息をついて、シーナの目をじっと見つめた。


「ボクはね、ランシアがすごーく苦手なんだ。常に煩くて我慢できなーいよ」


 ランシアの発言からどことなく察してはいたが、理由も想像に難しくない。シーナは苦笑した。

 またしてもぎこちない仕草が視界に入る。その違和感が話題に起因するものではないことは、とっくに気がついていた。


「ねぇ、シーナ」

「……ジン、どうしたのかしら?」

「そんなにボクが怖いかい?」


 ジンの声色は若干震えている。ジンの心境はランシアから耳にしたが、シーナにとっては御伽噺(おとぎばなし)の印象が先行してしまっていた。


「ジン、貴方は多分悪い魔王ではないんだと思うわ。でも、人里では貴方は恐怖の象徴とされているの。だから最初は怖かったわ」

「最初は?」

「えぇ。最初は背筋が凍ったもの。でも今は大丈夫よ」

「そうなの? そっかー」


 お互いに口元が緩むジンとシーナ。

 気づけばジンの口調は普段通りに戻っていた。


「それで、イネの種だったよーね。おばーさんから貰ってきたーよ」

「あ!」


 ジンは何処からともなく巾着袋を取り出して、中身を出した。皮を被った米粒がパラパラとシーナの掌に落ちる。


「ありがとう、ジン……」


 忘れていたなんて言えず、シーナは苦笑い。下手をすれば自身の首が飛んでしまう。シーナの肩は小刻みに震えていた。


「え、シーナ。大丈夫かーな?」

「今、震えているのは貴方が怖いからじゃないから大丈夫よ!」


 そう言って強気に親指を立てる。


 ***


 ランシアは案の定、彷徨っていた。川に沿って平原や森を点々と移動する。しかし、目当ての低木は見つからない。


「あれ、おかしいぞ。一向に見つからん!」


 落葉広葉樹と雑草の類しか見当たらなかった。


「いっそのこと大樹海に戻るか? マグの病も大変だろうしなぁ」


 そう思い至り、ランシアは来た道を引き返す。

 目的地はパープレア大樹海、その最奥部。ランシアは水中を人では成しえない速さで泳ぎ、やがて樹海まで到達する。

 人の姿へと転じて、草木の茂った土の上を疾走。木々の幹は褐色から赤紫色へ移り変わり、最奥部に陽光の射し込む地点へ向かう。


「あら、ランシア。思ったよりも早く戻ってきたのですね」

「それよりも早く! シニカ!! ウラレの葉はないか!!」

「そう言うと思って用意しておきましたよ」


 シニカは懐から楕円形の葉を数枚取り出して、巾着袋にしまい込む。その袋をランシアへと手渡した。


「ありがとう! シニカ! 恩に着る!!」


 そう言ってランシアは去っていった。その背中に向けて軽く手を振るシニカ。ランシアのシルエットが見えなくなったところでシニカは独りごつ。


「私はいつも遠目から皆を観察しているのですから、これくらいの手助けなら許されるでしょう」


 パツンと揃った前髪の奥で、深紅の瞳が妖しく輝く。魔法陣が目に浮かび上がり、遠目でシーナを眺めている。

 すると、シャノゲの塊根を加工し終えたシーナの姿があった。残るはジュジュの実とビシャクの茎を採取するだけである。手取り足取り教えた内容を反芻できている様子にシニカは満足気に頷いた。


「その調子ですよ、シーナ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ