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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第三章 人攫いの鯨
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孤高の魔王-5

 老婆は家にジンを招き入れた。

 閑散とした部屋には椅子とテーブル、暖炉がある。ボロ布で作られた日除けのカーテンは風に煽られ、吹き込む風は冷たい。


「爺さんも死んでしまったからかのぅ、人を入れるのは久々だわい」


 暖炉に火をつけて、老婆は笑う。


「そうかーぁ。でも、本当にボクを招き入れて良かったのかぁーな? こう見えてボクは魔王なんだ」

「この歳になるとねぇ、一言話すだけでもその人となりが分かるものなんだよ。それならきっと、お前さんは悪い魔王じゃないと思うんじゃ」


 その言葉にジンは首を傾げた。いとも簡単に他者を信じてしまって良いのか、とジンは心配する。感情が表に出ていたのか定かではないが、老婆はジンを見てカラカラ笑う。

 実際のところ老婆にとっては、目の前にいる者が誰であろうと関係の無い話だ。


「どうしてそう思うんだい?」

「お前さんが一番分かっていると思うんじゃ。それなのに理由を聞くのかい?」


 ケラケラと笑いながら、老婆はジンの奥底を見抜く。


「人間ってすごいんだぁーね」


 老婆の言葉に感嘆しつつも、部屋の奥にある木箱へ視線を移した。


「ああ、つい話に夢中になってしまったわい。そうだね、イネの種を売るという話だったね。どれくらい必要なんだい?」


 我に返った老婆は両手を軽く叩き、商人の目つきへと変わる。


「とりあえず、一人分の薬が作れるくらいは欲しいかぁーな」

「コレが薬になるとは、初めて聞いたわい。どんな薬になるのか知らないかい?」


 商人としての勘が働いたのだろうか、老婆は心做しか鋭くなった目付きでジンを見つめた。


「確か、セキドメ? の材料のひとつ、なんだってーさぁ」

「ほぅ、他にどんな材料が必要かについてはどうだい?」

「知らない」


 ジンが即答すると、老婆は残念そうに口を閉じる。


「でもー。薬が完成したら、材料を聞いてみるよーぉ」

「ありがとねぇ。それじゃあこれがイネの穀果だよ。お代は……そうだね、年寄りの話を聞いてもらったから結構だよ」

「本当に、いいのかぁーい?」

「いいんだよ。外が暗くなっているから気をつけて帰りな」

「ありがとーうね」


 ジンは小さく手を振って魔法を唱えた。本来の姿へと戻るための魔法を。ジンは巨大な白鯨へ変貌し、プカプカ空を泳いでいく。


「は、白鯨……!? ありゃ、あの子がまさか孤高の魔王とはねぇー!!」


 老婆は手をバチリと叩き、大袈裟に笑っていた。


 ***


 すっかり日は落ち、冷感と静寂が支配する夜。


「ゲホゲホッ! コホッ」


 マグは布団の上で横たえながら、喉にきゅっと力を入れる。水を飲むにしても喉は痛く、腫れ物が喉の裏側にこびりついているような感覚。コップに残った水がマグの容態を顕にしていた。

 誰かの足音が聞こえたところで上体を起こす。


「ねぇマグ。大丈夫? もう少しで薬が完成するから。大丈夫だから、待っててね」


 優しい言葉にマグは身体を楽にした。冷水に濡らしたタオルを取り替えて、額に乗せるシーナ。

 献身的な看病をしているが、焼けるような喉奥の痛みは取れない。喩えるならば水の抜けた砂漠と言えよう。

 どうにもならない痛みに首筋を上下に動かすが、(かえ)って()せてしまう。

 ぼんやりとした視界の中、シーナへと視線を向ける。


「し、シーナ」

「ん、何か欲しいものでもある?」

「そうじゃなくて。シーナはここにいて風邪、移ったりしないのか?」

「その時はその時よ」

「ありがとな」


 ふんす、と胸を張るシーナ。その強気な姿にマグは礼を伝える。


「……別に大丈夫よ」


 シーナはそっぽを向く。口から飛び出した言葉はあまりにも小さく、マグの耳は声を拾えなかった。


「……ん、何だって?」

「な、何でもないわよ。いいから寝てなさい」


 人差し指をまっすぐに立ててシーナは指示を出す。指先で額をつつくと、途端にマグは顔を顰めた。


「待ってて、もうすぐだから」


 そしてシーナは部屋を後にする。



 日は昇って翌日。澄んだ空気と温かな陽射しが意識を覚醒させる。


「ふわぁ」


 欠伸(あくび)とともに布団から起き上がる。シーナは冷水で顔を洗い流し布で水滴を拭う。水面に映りこんだ自身の──パチリと開いた(まなこ)を確認して首を二度ほど頷かせた。


「よーし、続きをやるのよ! (シーナ)!!」


 声高に己を鼓舞する。

 衣服を着替え靴紐を結ぶと、シーナは粉末にしておいたジンセの根の保管場所へ。小さな木箱の中に袋ごと詰められた粉末を確認すると、その場を離れた。


 ──要するに、ランシア待ちである。


「はぁ、本当に大丈夫かしら。ランシア」


 頭の片隅でランシアのおっちょこちょいな一面を回想するシーナ。何故だか溜め息が出てくる。


「はぁ、頭痛い……」


 この時既に、シーナの頭からジンのことは完全に抜け落ちていた。

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