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森の導の植物少女  作者: 文壱文(ふーみん)
第二章 エルフの園
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長命種-5

 キダハを探すための道しるべ、ミカンの木。陽光が熟れた果実を甘くしている。少し盛り上がった土、その中から飛び出した幹は瘦せていた。


「この近くで見かけたのよね?」

「そうそう、あの辺だよ」


 フィーロはミカンの木から二メートルほど離れた背の低い木を指さす。少しだけ枝を折り、樹皮を舌の上で転がした。刹那、表情(かお)が歪む。やがてシーナは「苦い」と口にした。


「うっ……」

「そんなに苦いの?」


 アーレが質問する。興味を持ったのか、樹皮の欠片をパクリと口の中へ。アーレは口の中を押さえて悶え始めた。あまりの苦さに目尻から溢れた液体。自身と瓜二つの滑稽な姿にフィーロは吹き出した。


「ぷっ、ふふふ、はははははは」

「なによフィーロ! そんなに笑わなくたっていいじゃん」

「だって私たち双子なのに、まるでやることが違うんだもん」


 フィーロは未だにクスクスと笑っている。が、笑い声をまるで堪えきれていない。アーレはぷくりと頬を膨らませ、フィーロを睨みつけた。


「まあまあ、二人とも落ち着きなさいよ。お願いだから、キダハの樹皮を採取手伝って」

「「分かった、手伝うよ」」


 エルフ少女二人は言い合いを止め、目の前の低木に目を合わせる。シーナの隣にしゃがみ込み、魔法で枝を刻んでいく。上手いこと樹皮だけを引き剥がせば、安納芋のような肌が露わとなった。鮮やかな黄色に見惚れるフィーロであったが、必要なのは樹皮のほうである。

 手元に準備した籠の中へ樹皮だけを集めると、シーナたちはその場を離れた。向かうは住居の中。

 集めた薬の原料を流水で洗い、火と風の魔法で完全に乾燥させる。そして火の上で()り上げていく。

 明らかに苦い、そんなニオイが鍋の中に立ち込めた。


「「うっ……!」」


 フィーロ達が顔を顰めるのも無理はない。シーナとて、眉間にシワが寄るくらいである。


「……完成したわ」

「「本当に!?」」

「あとはこれを作り続けるだけよ」


 シーナの容赦ない一言に、二人の特徴的な耳が下を向く。


「あ、でも私はシニカさんみたくサディスト(ドS)じゃないから」


 その反応を見て何を感じたのか、シーナは訂正を入れた。


 ***


 一方、マグとノリアは足を保護する「何か」を作るべく、つる性の植物を探す。平たく言ってしまえば編み物である。


「……お兄ちゃん。勝負に躍起になるのはいいけど、崖じゃないからって山を登るのは違うんじゃないかな」


 ノリアは不満げな表情で兄を睨む。ブツブツと口から不満が漏れ出ているが、足はマグの後を追っている。


「お兄ちゃん」

「ん? どうしたんだよノリア」

「どうしたもこうしたもないよ。私、疲れたもん」


 ノリアの言葉も正しい。山を登り始めてから約一時間が経過している。しかし、休憩は一度もとっていなかった。

 つまるところ、マグの頭から「休息」の二文字は完全に抜け落ちていたのである。

 つる性植物はどちらかと言えば木々の密集した場所に多い。光の届かない場所で光合成をするための()()なのだから、山の中に沢山あるだろうという魂胆だ。


「あの樹海なら沢山見つかるんだけどな」


 マグはそっとぼやく。その言葉を零した途端、ノリアの視線が深々と喉元に刺さった。(よど)みとも呼べる感情を全面に出して、ノリアなりに反抗しているのである。

 少しだけ痛んでくる、マグの良心。


「……少し、休憩にしようか」


 ノリアに向けて、そう伝えた。



 山の中での休息と言えば、川の水を飲むことや、水浴びなどがある。ノリアは流れる水を両手で掬い、口元へ持っていく。そんなノリアを眺めながら、野鳥の干し肉にかぶりつくマグ。


「ああ、美味しくないはずなのに美味しく感じる」


 淡白な味の干し肉なのだが、この瞬間だけはどうにも美味しく感じていた。


「ノリア。お前も食べるか?」


 水を掬っていたノリアは後ろを振り向き、顔を頷かせる。マグの側まで駆け寄って、ちょこんと座り込んだ。

 肉を(はさみ)でカットし、食べきれる大きさのものをノリアへ手渡す。ノリアのお腹は愉快な音を鳴らしていた。


「ほら、お前も食べろよ」

「うん……」


 大きな口を空け、ぱくり。

 何度も噛むごとに肉の旨味が引き出されていく。干し肉のはずなのに、涙が出てしまった。

 その様子を見たマグは一言。


「……無理させてごめんな」

「私は大丈夫だから。それにこのお肉、昔を思い出すの」


 二人暮らしの貧しかった頃のこと。干し肉だけの貧相な食卓を囲ったことがあった。ノリアは楽しかったあの瞬間(とき)へ思いを馳せる。


「美味しい、美味しいよお兄ちゃん」

「そっか、それは良かった」


 ピクニックとも違う、兄妹の小さな楽しみは懐かしい味とともに終わりを迎えたのだった。

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