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御魂の呟き その2

ちょっちとダークになりました。

なんか砂場へ潜っていくような異様な感覚。

不思議と音がしないんだよね。夜だから、みんな寝静まっているのとは違う気がする。

そんな中、


「ma.マ、ま、 mari、マリ、 まり、 茉莉」


私を呼ぶ言葉が感じられた。音のない静かな中に私の名が感じられる。こういう風に呼んでくれるのはお母さんと…翔だけ。'名字じゃなくて名前で呼べ'って言ってからだっけ。なんか恥ずかしくって耳まで熱くなったんだな。


彼奴には言葉にしてない恋心。うわぁ、うわぁ、なんか、なんか思い出しちゃってるよ。


彼が来てる。翔が来てくれている。でも、魂のない私の顔なんて見てほしくない。朽ちていくだけの体なんて見てほしくない。帰れといいたい。でも、でもだよ。今まで一緒にいてくれてありがとう。ひとりぼっちだと思い込んでいたけど翔のおかげで仲間かできた。嬉しいよってのも伝えたい。あぁ神様っ。もう少し時間をください。翔にありがとうの感謝の言葉を伝えたいよぉ。


そうしたら、いきなり、目の前が開けたんだよね。自分のいた部屋より広いんだけど、機械やらが多くて狭く感じる部屋だった。狭いベットの周りにテレビやら、たくさんのパイプやコードが繋がったものが囲んでいるんだよ。そんなものに埋もれるように人が寝ている。体に何本ものコードやチューブを繋がれ、口にチューブの繋がったおしゃぶりみたいなのを捩じ込まれた女が寝ている。微かに見える髪の毛は黄色、染めているんだね。一緒に左の小鼻にピアス。


なんか花嫁の象徴なんだとテレビで言っていた。


「これがウチの体」

「なんか死にかけてない?」


よくTVのドラマである臨終シーンみたいだ。


「死んじゃないよ。ヒーくんの車で山奥行ったのね。ヒーくんが1人じゃやだって、一緒に行ってくれっていうから、良いよって、車の中で黒いのに火をつけて、そうしたらなんか目眩して頭痛くなってぼーっとしたの」

「それって心中、自殺じゃないの?」

「そうなのかなぁ?、うちにはヒーくんしかないから、それでいいやって」


彼女から、微かに喜びが伝わる。


「ヒーくんが初めてだったの、スキになるのもキスするのも、エッチだってそう。嬉しいこと、気持ち良いこと、たくさん教えてくれたの。だからウチはヒーくんだけなんだよ。それだけで良いの。他にはいらない」


喜びが悲しみに代わる。


「だけどヒーくん、ひとりで行っちゃったの。体から離れてフワーって、だからウチも行くのね。だって一緒に行けるのウチだけやし」

「追っかけてどうするつもり?」

「もちろん、一緒になるんだよ。一緒になって溶けて、いつまでも一緒なの」


だけど、ここに来てから、ずっと見えていることがある。この子は見えていないみたい。金髪の男が彼女の魂らしきものの背中にしがみついている。齧り付いてもいる。それがちぎれていくのだ。部分的に引きちぎりられて消えていく。食べられてると言ってもいいかも。

引きちぎっている手もたくさん取り憑いている。多分だけど、最後に小さく淡い光が2つ、残っていた残滓を取り込んでいくように見えて、全部なくなった。


「あっ、ヒーくんの気配なくなっちゃう。急いで追わないと」


彼女は私の肩を持ってベッドに横になっている自分の体に押し付けていく。私が彼女と体へ沈んでいくようだ。


「じゃあ、この体あげるね。大事に使ってね」


沈み込む寸前に私は彼女の腕を掴み、引き寄せる、抱き込んだ。そのまま、彼女の中に入り込んでいった。


「何するだしぃ。ウチ、行かないといけんのに」

「ダァめ、私じゃあ、あんたの体がよくわからんから教えて、それに彼氏……」


それを彼女に告げるとおとなしくなって自分の体に戻っていった。でも体の隅っこでいじけてる。



ピッピッピッ、シュコー、グュジュジュー、シーっ、


周りの音がきこえてきた。部屋は広いんだろうけど、なんか色々とうるさい。近くのテレビや機械からするし、隣りのベッドからも同じ音か聞こえてくる。


「翔がきてるんだ、行かなきゃ」


私じゃない彼女の声が喉から出る。起き上がり、頭や鼻から口から胸から腕から足から腰から股間から出ているコードやチューブを引き攣り、引きちぎりながらベッドをおりて、出口らしきものに向かう。電子音もブザーのような警告音に変わっていく。


「翔」


頼りになるのはさっき感じた言葉の感覚のみ。よろよろと廊下を歩いていく。

身体の至る所から出ているチューブから何か漏れてるし、力も抜けていく。だるい。

明るい方へゆっくりと進んでいくと僅かだ灯りの下、学生服を着た男子が見えた。

言葉の感じもする。とにかく話しかける。


「……カケル、あなた日向翔でしょう」


 しかし彼は否定する。


「そっかぁ、これじゃあね」


 自分の見知った手の形ではないのを知って、身体の力が全て抜け出した。


 もう、倒れるしかなかった。

 横に倒れて意識を放棄したんだ。

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