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御魂の呟き その1

はっ


 意識が戻った。この体、いきなり真っ暗になって動かなくなるんだ。ポンコツな体だよ。

 

(ポンコツいうなっシー)


 ごめん、ごめん。ひとつしかない大事な体だからね。


 微かに開く瞼から翔が立ち去る姿を見ることができた。どうやら転倒しないよう翔が助けてくれたみたい。ありがとう。助けてくれたんだね。嬉しいよ。

 なんたって、この子の周り味方がいないんだよね。1人の男を溺愛した挙句、敵か無関心ばかり作ったんだよ。

 だから翔、君をみた時どれほど安堵したか知ってほしいよ。伝えられるといいな。そもそも、この体に入ったのは2ヶ月ほど前の話なんだよ。その時はねぇ、


 ぼーっとしていたはずなんだけど、目が覚めた。狭いトンネルみたいなところ動いている。トンネルの壁にシミ見たいのが見えるけど、なんか動いているようだ。

 そのうちに広い場所に出た。あれ、宙に浮いてる。狭い部屋の個室の天井近くに私はいる。足元から紐みたいなのが垂れ下がってベッドに寝ている誰かにつながっていた。

 頭にニット帽を被り、鼻にはチューブをおしこまれ、チューブのついたおしゃぶりを口に入れられている。きている寝巻きの胸元とか袖から出ているケーブルが繋がっている機械のモニターの線は何本かの平行線。


 ベッドの両サイドには人が立っている。よれて疲れが滲み出ている女性が一人。薄緑の服を着て着るのが一人、白衣を着た人は寝ている人の手首を持っている。

 そして時計を見て薄緑のの服を着た人にひと言二言告げて女性に話しかけ、合掌している。そして部屋を出て行った。足元から伸びているものも切れてしまった。


(これが死ぬってことかな)


 我ながら他人事の感想です。


 半年前、突然の頭痛。薬を飲んでも治ってくれなかった。お金がないとお母さんに言われて病院にはいけなかった。我慢するしかなかったのよね。


 そのうちに目の前のものが2重に見え、手足は痺れるは食べたものは喉を通らないはで学校で倒れてしまったんだよね。

救急車で病院に運ばれて検査、検査。結論は癌、頭の奥に癌ができたそうな。お母さんが金がないと言いながらも通わせてくれた高校の卒業まであと少しなのに。


 いろいろと癌を直す治療法は、今はあるけど、私は点滴で薬を入れるだけ。歯茎から血が止まらないわ。くしゃみをすればテッシュかが真っ赤になるわ。髪が全部抜けてしまってニット帽で隠したの。

最後までお見舞いに来てくれていた親友で戦友の翔にも酷い言葉で拒絶してしまった。


「もう会いたくない。来るな」


 一応女の子の私。恥ずかしくて悔しかったんだもん。それから彼は見ていない。


 体を動かすのも苦痛になり、頭の痛いのも取れなくて寝られなくなったころから薬が変わった。

ぼーっとして頭の中がぼやけていく感じになってしまう。痛くはない、痛くはないけど考えるのが億劫になってしまった。そして今に至る。


 体についていたコードやチューブが色々と外されて、自分の顔を見ることが出来た。瞼を閉じ穏やかな顔になってる。自分で言うのもなんだけど綺麗な方だと思ってた。


(あーぁ、死んじゃたんだねえ。ごめんね母さん。ごめんね翔)


 出てはいないけど涙が流れた気がしている。



 すると、床から黄色いものが滲み出て来た。髪の毛だ。それも長かった。女性だ、その髪の毛から覗く鼻にはピアス、耳にもピアスやら、リングやらカフス、ニードルなんかが刺さっている。

瞼を擦る指にはいくつもの指輪、なんと爪に花がついている。ネイルアートとか言うのだろう。

服は革ジャンに革のミニスカートと編みタイツ。ミニキャミを押し上げる胸はかなりのものだった。

 

 そして啜り泣く彼女は私を認識して顔を向けてきた。


「あなたも私と同じかなぁ。なら、ねぇお願いがあるの」


 いきなり会話をふっかけてきた。


「私の体をあげる。使ってぇ」

「使ってって言っても、あなたはどうするの?」

「ヒーくん追っかけるの。あいつも魂だから、私も魂になって追うのよ。そうすると生きた体が空くから、使ってくれればいいかなって」


「何を言ってるのだか」


 その女性は私の近くまでフヨフヨと飛んでくると手をとってきた。そして床に向かって降りていく。


「ちょっと、ちょっと、ナニ引っ張ってるの」

「私の体、この下にあるの。連れてってあげる」

「私は返事してないー」


 言ってもダメだった。下に引きずり下ろされ、床に沈んで行った。それがこの世の自分の見納めになってしまった。


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