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ウチを選んで

  茉琳の様子がおかしい。キャンバスでは、もともと挙動不審な女と彼女は思われている。更に言えば、半年前は、男の横に侍り媚を売っている醜聞ものだったのである。

 彼女は2号館2階のカフェエリアでは、キョロキョロとして誰かを探す仕草をする。連絡路にあるベンチに移ってはスマホの画面へババババっと必死にタップ操作をしている。そして,画面をじっと見て肩を落とすとトボトボと歩いている。

  昼休みになり、彼女は食が進まないということでカフェオレとサンドイッチのセットの軽めのものを頼んでいた。テーブルについて、サンドイッチをモソモソと一口、そしてカフェオレでそれを胃に流し込む。それ以降テーブルの上に残したままになっていた。


「ねぇ、茉琳さん。どうかしたの? そんなに思い詰めた顔をして?」


テーブルの上に置きっぱなしとなっているスマホをじっと見ているのだが、側からいきなり呼ばれて肩を震わせると、ゆっくりと呼ばれた方へ首を捲らせる。

 茉琳の友人の1人で学部も一緒で、いつもカオリンと親しみを込めて呼んでいる女性が心配そうな顔をして茉琳を見ていた。


「あー、カオリン。………、呼んだなり?」


茉琳は、覇気がなく体から力が抜けたかというように言葉を発した。

目も空ろ、口元も力なく開いている。涎が垂れていないだけまし、というくらいの腑抜けた体たらくだっだ。


「ほんとにどうしたの? 心ここにあらずっていう感じよ」

「そう………なり,か」

「あなた! 大丈夫? どうかしているよ。ねえ」


カオリンは慌てる。あまりにも気の抜けた返事を茉琳は返してくるの。いつもなら、元気に返事を返す茉琳がここまで落ち込んでいるのは初めてだ。


「何か,あったの? 翔くんどうしたの?」


いつも、彼女の側にいる印象が強い青年が見当たらない。彼女が何やら、やらかす度に彼が何かと面倒を見ていたりする。そんな2人を友人たちはホッコリと観ていたのだけど、彼が側にいないのだ。


「………いないの」


ボソリと茉琳が呟く。


「いない? 彼,どこかに出かけたの?」

「…………しっ、知らないなり。………出かけるなんて…………聞いてないなし」


呟きながらも,茉琳がだんだんと萎んでいくのをカオリンは感じていた。


「朝から,スマホを何度もかけるけど返事がないし,SNSで書き込んでも既読がつかないなり」


茉琳は、カオリンに向かって訥々と話し始めた。側に既知の友人がいてくれて話を聞いてもらえたことで多少でも落ち着いてきたようだ。


「おかしいわね。翔くんだっけ。彼はあなたを無下にするようには見えないんだけど。彼,あなたのことを相当,気にしてるよ」


カオリンは,首を傾げながら考えていることをマリンに告げる。


「ありがとうなしな。全然連絡取れないなんておかしいなり。今日も一緒にランチ食べようって,約束もしたなりよ」

「そんなんで,約束をすっぽかすなんて,ねえ?」

「ウチもなんでか,わからないよう」

「連絡しても無しの礫。約束をしても守らない。全くもってお座なりな対応よねえ」


そんな茉琳の話をカオリンは聞いていたのだけれど,ハタと、


「あなた,彼に何かしたんじゃないの? 嫌われるようなことしなかった?」


と思いつくままに茉琳に聞く。すると茉琳の肩がビクッと大きく震えた。そのまま彼女は動きを止めた。


 しばらくして,


「昨日のことだけど」


ポツリと,彼女が呟く。


「昨日の?」

「そう,昨日のことなんだけど」

「昨日、何があったの?」

「ウチって,発作持ちなの知ってるなしな。いきなり気を失ってしまうなり」

「知ってるよ。大丈夫かって気になってる」



茉琳には一酸化炭素中毒による意識障害がある。練炭自殺した元彼に巻き込まれ、後遺症が残ってしまった。


「昨日,発作が起きたなり。すぐに意識も戻ったえ。その時,翔の携帯がずぶ濡れになっていだなり。彼,物凄く悲しい目をしていたなしな」

「その時に何かあったと」

「すぐに聞いたえ。翔が丁度,手にスマホを持っているときにウチが気を失って寄りかかったらしいの。それで,スマホにジンジャエールをかけてしまったなり」

「それは,運の悪いことね。それで。翔くん怒ってた?」

「ううん、怒らなかったなしよ。このスマホは防水だから大丈夫だよって言ってくれたなり」

「じゃあ、その線はないのかなぁ」


 話の途中に茉琳のスマホからマリンバの着信音が鳴る。彼女も、いきなりのことで慌ててしまい、手持ちのバックから取り出す時にファンブルしてしまう。更に画面のタッチするも、間違ってスピーカーホンにしてしまった。


「茉琳、茉琳。聞こえる」


 件の彼の声が聞こえてきた。


「………」


 茉琳は画面を見るばかりで応えようとしない。


「どうしたの? 茉琳」


 カオリンは動かない彼女が心配になって尋ねた。


「………」



「あれ。間違えたかな?」


 スピーカーからは翔の声、


「ごめん、代わりに話すね。カオリンです」

「その声ってカオリンさん。良かった繋がってる。とりあえず代替え機でかけてますんで」

「一体、どうしたの」


 いまだ、固まっている茉琳の代わりにカオリンが聞く。


「代替えって何かあったの?」

「ああ、すいません。昨日の夜からスマホの調子悪くてね。そんでもって自宅でも水没させちゃったんです」

「それにしても、もう昼も過ぎているのよ。今まで何してたの」


 カオリンは呆れながらも聞く。


「修理に持ち込んだら、店舗が混んでて待たされました」

「あなたもよくよく運が悪いわね」

「自分でも感じます。と、トリあえず、じゃない。茉琳にごめんって伝えてもらえますか」

「直接、話しをしないの?」


フォーン


電車の警笛がスマホのスピーカーから聞こえてきた。


「地下鉄がきちゃてて。いま、ホームにいるんです」

「後で、ちゃんと話しなさいよね」


プツッ


 通話は切れた。カオリンは茉琳の顔を覗くと緊張をして強張った表情が微かに解けるのを見てホッと胸を撫で下ろした。


「茉琳、良かったじゃない。スマホのトラブルなんだって」

「………」


しかし、茉琳からの反応がなかった。


パンッ


カオリンは嘆息をすると、茉琳の肩を叩く。


「アウッチっ。カオリン、何するなし,痛いなり」

「なにっ、辛気臭い臭い顔をして」

「うっ、ウチ、ウチ………」


「あなた、怖かったじゃないの? 彼に嫌われたんじゃないかって」

「うっ、ウチ………」

  

「翔君だっけ? 彼の喋りは、そんな感じ微塵も見られなかったわよ。しっかりごめんって謝ってたよ」


「………、ウチ」


「ウチ,ウチ,ウチって、いつまでも煮え切らない」


茉琳の態度に業を煮やして、カオリンの言葉に角が立つ。


「ウチ」


「茉琳,あなた寂しいのでしょう。翔くんの顔見れなくて」


「………」


「ほぉらぁ、また。茉琳。あなた、怖いんでしょう。翔くんに嫌われるの?」


「………、うん」


「翔くんの事、好きじゃないの?」


「違うなり」


「なら、しっかりと寂しかった。怖かったって言わなくっちゃ」


「で、でも」


再び、カオリンは嘆息する。


「なんで、そんなに自信ないか知らないけど、彼だってあなたのこと,好意的に思っているわ」


「知ってるなし」


「いい機会だから,あなたの気持ち伝えなさいよ。彼、ちゃんと応えてくれるよ」


「そうなんか?」


「そっ、お姉ちゃんが太鼓判押してあげるわ」


「お姉ちゃんって、カオリン、ウチと同い年なのに」


微かではあるが茉琳の表情に覇気が戻る。それを見たカオリンのは口元を綻ばせると、


「気にしない、気にしない。兎に角、彼にこの場所で待ってるって伝えなさい。彼は来るから。そして、あなたの気持ちを伝えるの。いい」


「カオリン」


「後で、どうなったか教えてね。まっ,結果はわかっちゃいるけどね」


「はっ,はいなりい」


 返事を聞くと。カオリンは踵を返して肩越しに手を振りながら、茉琳の元を去っていった。暫く、彼女の背が見えなくなるまで見ていた茉琳は、手に持つスマホを持ち直してトットッと画面をタップして、じっと見つめて彼が来るのを待つことにしたようだ。



 午後最初の講義も終わる頃、茉琳は東門へ繋がる歩道沿いのベンチにポツンと座っている。翔にはスマホのショートメールで居場所を知らせて待っている。


「茉琳ー」


 彼女を呼ぶ声が聞こえた。翔は息を切らせて走ってくる。


「ハァ、ハァ、ご、ごめん、ごめん ハァハァ。スマホか壊れて修理出してた」


 彼は、駆け寄って荒い息をしながら膝に手を置いて屈み、茉琳に話していく。


「うん、知ってる。カオリンとの話、聞いてたなり」

「いっしょにランチ行こうって約束すっぽかしたから、お詫びにスイーツ買ってあげる。許して」


「うん」


ベンチに座る茉琳は、息を整えている翔を見上げる。


「翔」

「何?」


茉琳は、翔の目をじっと見つめて、


「ウチ,翔のこと好きや」

「いきなり、何!」

「翔に会えなくて、寂しかったなり。スマホのこと,怒られると思って怖かったなし、嫌われると思ってぞっとしたえ」


彼女は悲哀のこもった視線を翔に向ける。


「えっ、何言ってるの。茉琳」

「翔、好き。ウチを選んで、ウチを翔の彼女にしてくれなし」

「茉琳!」

「ウチ,元彼がいたなり、こんな、他の男の垢に塗れた女なんてダメなんか? 教えて欲しいなり」

「そっ,そんなことないよ」

「なら、ウチと付き合ってくれなし。うち、翔しかいないなり、翔でないとダメなしよ」

(私も翔と一緒になりたぃ。あなたとなら)


 茉琳は、想いを伝えようと翔に詰め寄っていく。茉琳の剣幕に翔は一歩引くも、視線を巡らし考えた。そして髪を掻きむしると、


「茉琳。付き合ってくれなんて、男がいうセリフだよ。全く、女の子に言わせるなんて俺もしょうがないなあ」

「ごめんなっし。翔」


 翔も覚悟を決めて、茉琳の瞳を見つめて。


「わかった。改めて言わせて。茉琳さん、付き合ってください。俺も、多分………、じゃない。絶対、茉琳じゃなきゃダメなんだよ。お願いします」


 頭を下げ、手を前に出してお辞儀をした。茉琳は,その手を両手で包み、


「はいなりぃ。翔」

(はいだよ翔くん)


 言うが否や、マリンの目から涙が溢れだす。唇は綻び,やがて満面の笑顔に変わっていく。


「おおきにな。翔。これから安生頼むは」

(こんな私だけど宜しくね)


 茉琳は頬を真っ赤に染めて喜びに咽び、翔の手を包み続ける。

 翔はと言えば,周りの視線が気になるのか、頬の染まった顔をあちらこちらさせている。茉琳に手を掴まれている所為で逃げ隠れることができないでいた。

 運の良いことに2人の周りには人通りがなかったりする。


 その内、茉琳は翔に近づき,体を密着させる。


「茉琳、ちょっ、ちょっと近すぎ。発作が起きちゃう。少し離れて」

「ダァメなり。大丈夫なしよ」

「そんなことな………、あれ、出ないや。なんでえっ?」

「きっと、お互い身も心も認めたに違いないなり」

「そうなのかな」

「そうなりえっ。じゃあ、翔。行こ。スイーツ買ってくれるなしな」

「ああ、いいよ。約束だしね」

「やったあ。翔。ありがとなり。さあ,なんにしようかなりな」


 そして、茉琳は翔の手を引っ張り、彼の顔を自分に近づけると耳元に囁く。


「でな。その後、何か用事あるなしか。ウチがお金出すさかい。ディナーでも行かへんか」

「え?、なんでまた」

「記念や記念。お付き合い記念や。2人の記念日や」

「いいのかい」

「いいんや」


 幸せ一杯の笑顔を浮かべた茉琳は翔の腕を抱きしめ、引きずるように歩き出す。更に茉琳は翔の腕を引き込み、唇を彼の耳に近づけ、


「その後、いいとこ行かへんか? ホテルやホテル。2人でしっぼりや」

「茉琳!? お前」

(茉琳!? あなた)

「ウチら、付き合うとるんや、そんなの当たり前やろ。ほな、行こか」


 顔を真っ赤にして慌てる翔の腕を引っ張って茉琳は彼と共に東門を抜けて繁華街へと繰り出していった。


(茉琳! 言うに事欠いて、翔くんを変なとこに連れ込まないでえっ」
























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