びっくり箱で燥ぐ
いきなり、空気の抜ける音がして、ドアが開く、
「降りるよ。茉琳」
「はいなりぃ。着いたなりえ」
2人は座席から降りて、車室前方にある運賃箱にスマホをタッチさせてNFCで料金を支払い、バスを降りていく。降りると2人はバス停の辺りでキョロキョロと左右を見渡した。
「翔、どっちなり? わかるなしか」
「調べてきたんじゃなの。ここに来たいって言ったの茉琳だよ」
「うっ、うちだって調べてみたなり、でも、ここには初めて来たなし。わからないえ」
「しょうがないなあ」
翔は茉琳に呆れながらもスマホを取り出して画面を操作して行き先の検索を始めた。
「こっちかな」
おおよその道行が分かったようで翔は歩き始める。茉琳は、未だにわからないようで不安そうな顔をしながら翔に着いていった。
「あれだね。あの看板そうだろ」
それほど移動せずに翔が屋外のポール看板を見つけたようだ。
「やったね。ありがとうなり。翔、頼りになるえ」
茉琳は喜び、翔の腕に抱きついていった。翔は一瞬、顔を引き攣らせるものの、自分の息が普通にできることに安堵している。彼は女性恐怖症からくる過呼吸という障害を持っているのだが茉琳に触られても概ね発症しなくなっている。
「茉琳。あまり、くっつかないで欲しいな。俺がどうなるか知ってるでしょ」
「ウチだって、いつ転ぶかわからないなし、頼りになるのは翔しかいないなり、さあ行くえ」
そう言って茉琳は翔の腕を一層強く抱きついていった。そして見つけた看板に向かって彼を引っ張って歩き始める。
「茉琳」
「だいじょぶ、だいじょぶ。だいじょーぶ」
「何を根拠にそんな事言えるの」
「勘!」
「あのなぁ」
周りから見れば、いちゃついているようにしか見えないのを2人は気づいていない。
ウィークデイの昼下がり、講義の合間に探しに来たためか人通りもほとんどなく、ギャラリーもいなかったのが幸いだったりする。それほど歩く事なく、看板の下に2人は到着した。
「これが本屋? 茉琳。本当にここで良いの?」
「うーん、自信ないなり、調べたらここだったなし、可怪しいなしな」
そこは往年のアメリカンガレージを模した店舗だった。もしかしたら、わざわざ遥か遠くの地から運んできたのかもしれない。それぐらい古びた店構えをしている。入り口の上の看板には刺激的な本屋の意味のロゴ。そのおかげでここが本屋らしいとわかる。赤いガラス張りの引戸の横にはカプセルトイの販売機が並び、その横には飲料の自動販売機も設置されている。
「翔、この自販機って何なり?」
その内の1つに茉琳は興味を示して近づいいく。赤い筐体に縦長のガラス戸が開くように取り付けられている。硬貨を入れるところのすぐ上に瓶のイラストが貼り付けてあり、
「コーラだよ。コーラ。瓶のなんて初めてみたよ」
「コーラってベットボトルじゃないなり? 缶は見たことあるなりよ」
「昔は瓶だって聞いた時あるよ」
「そうなんだ。買ってみるなし。あれれ、翔。スマホかざすところないなり」
「これ、昔のだから硬貨専用らしいよ」
そう聞いて、茉琳は自分のトートバッグから長財布を取り出し中身を見て慌てた。
「翔、ごめんなっし。ウチ、細かいのないなり。貸してくれへんか」
「もう、しょうがないなあ」
と言いつつ、翔は自分の財布を取り出すと、硬貨を探り出し茉琳に渡していく。早速、茉琳は受け取った硬貨を自販機に差し入れる。すると筐体から何某か動く音がした。
「あれ、瓶だっけ、落ちて来ないえ」
「取り出し口もないし、もしかしてこの扉を開けるのかな」
茉琳は言われた通り、縦長のガラス戸を開ける。中には商品名の書かれた王冠が縦に並び、その内の一本を茉琳は取り出した。
「冷たーい。でも、なんか綺麗なり。それに変わった形なしね」
茉琳が知るビール瓶の茶色いストレートな線のものと違い、優雅な曲線を描く青い飴色のガラスの瓶に茉琳は目を輝かせる。
表面には白い文字でコーラと書かれているのが見てとれた。表面もツルッとはしていなくて持ちやすいように凹凸がつけられている。中の黒っぽい液体が傾け方で瓶の中を動くのが見える。
「翔、なんか面白ーい」
茉琳はデザインを確認する様に瓶を上下左右、グルグルと動かして細かく鑑賞していった。
「ダメだよ、茉琳。そんなに振っちゃあ」
「えっ、あわわわっ」
翔に急に声をかけられて、慌てた茉琳の手の間ででコーラの瓶をお手玉してしまう。何とか落とさずに瓶を手の内に納めると、
「翔! 酷いなり。落とすとこだったなしー」
「茉琳が瓶で遊んでいるからだろ。栓を開けると泡が吹き出るよ」
「プシャーってなるなしね。ごめんなり、翔」
と、しょんぼりする茉琳は瓶の頭を見て気がついた。
「ねえ、これどうやって飲むなり、蓋が取れないえ」
「あっ、そうだ。栓抜きしないと取れないね」
「栓抜きはどこなり、見当たらないえ」
2人は自販機の何処かに栓抜きがあるかどうか探し始める。
「本当だ。どこにもないや。買ったのにどうしよう」
どうやらいくら探してもない様で、翔は慌ててスマホで検索を掛けていく。
[コーラ 自販機 栓抜き]
「あった、あった。茉琳、言うとおりにして」
「はいなり」
「えーと、まずは、瓶の頭を自販機の真ん中辺りにある黒っぽい穴に入れる。
「あったなし、そうっと場所を合わせて」
「奥にある出っ張りに引っ掛けて」
「ウリウリ。あっ、入ったなり。翔」
「下にゆっくりと押し込んでいく」
プシュっと鳴って王冠が外れた。そのまま瓶が抜けたのは良いものの、泡が出てしまい瓶の口から溢れてしまった。
「あっ〜、勿体ない。白いの溢れたなし。飲んじゃお」
と、茉琳は泡が溢れる瓶の口を含み、ゴクリと飲んでしまう。
「シュワシュワが喉を流れていくっちゃ。ねえ、翔もどうなり?」
茉琳は、口に含んだ瓶のを取り出し、そのまま、翔に差し出す。
「いいよ。俺、自分で買うから」
「別に気にしなくていいなし。じゃ遠慮なく頂くえ」
翔は、微かに頬を染めつつ、自分の分のコーラを買う。茉琳も再び瓶の口を含んででいく。自販機の前に2人並んで飲んでいった。ひと通り飲み干すと、
「げふっ。あ〜、美味しかったなり。ね! 翔」
「茉琳。人前でゲップなんて端ないよ」
慌てて、茉琳は片手で自分の口を隠してしまう。そして辺りを見渡し、
「誰も見てないなり、翔しかいないえ。いいじゃないしー」
「しょうがねぇなあ。茉琳も女性なんだから、気をつけた方がいいよ」
と、翔に注意されるのだが、自分を気遣ってくれてるのがわかるのか、茉琳の唇は綻ぶ。
「ところでさあ、何で、ここまで来たの? 本屋なら茉琳のマンションの近くにあるでしょ、もっと大きいのが」
『欲しい本があって、そっちの本屋も探したのね。でも見つからなかったの。ネットで探して、やっと、ここて取り扱ってるって知ったんだけど。一緒に来もらってありがとう。翔くん。助かりました』
「まあ、いいよ。丁度、講義も開いてたし、茉琳がどこかで遠くで1人転ばれる方が心臓に悪いよ」
しかし、翔は、何気に茉琳の話し方変わったことに気づかずにいた。
『心配してくれてるのね。翔、そういうとこ好きよ』
「うっ、何言い出すの。そんなこと言ったって何も出ないからね。もう」
『ウフフッ、赤くなった翔、可愛い』
「ほらほら、揶揄わないの。早く入ろ。時間だって、そんなに無いんだから」
『ハイハイ』
2人は引戸を開けて中に入っていった。
「「ここって本屋さん?」」
ジュークBOXから英語でノリの良い軽快なソングを流れている。
入って直ぐに4面ガラスの冷蔵ショーケスがあってベンジャミンの炭酸頭痛薬、それのチェリー味もある。ミックス果汁フレーバー炭酸割も、当然、ジンジャーエールもあったりする。内容量の表記はガロン。アメリカから直輸入の缶飲料が入れられている。
店舗の中はガレージショップの要望をなし、ロフトもあって、そこには自転車からスケボー、ボディボートなど輸入品が無造作に置かれて販売もされていた。
一階の壁に貼ってある往年の映画スターのポスターやビンテージカーのポスターは良いのだが、Tシャツやビンテージジーンズまでも値札がついて壁を飾っている。
店内を仕切る壁にはキーホルダーや、ワッペン、登山用のカラビナ、ステンレス製やらカラフルな色をしたキャラクターカップも飾られていたりする。
そんなものたちに埋もれるように可愛い本や趣味性の高いデープな本たちが埋もれる様にがディスプレイされていたりする。
「どう見てもファンシー雑貨店だしー」
出入り口近くにあるレジには、やはり輸入品のチューイングガムが並べられ。多種な色の包装がされた一口キャンデーのツリーやタワーが置かれている。
「あー、キャンデー! これのいちごミルク味が大好きなり」
また、レジ横にはビリヤード台が置かれ、手前には古き良き時代のアメ車や日本の骨董品と言える四輪や二輪の特集雑誌が扇状に置かれていた。その奥側にはブリキでできた小さいバケツにはソーダ味のキャンディや各種の一口チョコの包みが入れられている。
「この一口クランチチョコおいしなり、でも噛みきれないし歯につくしなぁー」
「ボタンチョコ!」
ある棚には、ファッション小物や付けまつ毛やネイルチップやジェルセット、リップのコスメもあり、
「シュシュもあるなし。このリップ、いい色なりよ」
一風変わったスマホのケースやストラップもあった。
「スマホのアクセもなしな。可愛いの一杯なり」
店の一角にパーティで使えるグッズもこれでもかっと言うほど多く販売している。
「禿頭のかつら!」
「メガネ、髭おじさんの仮面!」
「バニーにナース、セーラー服のコスもあるなり]
「この無気力顔人形は何?」
「何、これ パーティプリン! バケツで作るって食べきれないなり」
茉琳は、この店の中に気になるものが沢山あるようで、ブリーチをして黄色に染めた髪を振り乱しバタバタと走り回り次々と気になる商品を手に取って見ていた。
後姿を見ると以前に比べて髪が生え伸び黒い地毛のプリンと呼ばれる部分も広がっている。
「まるでびっくり箱なり。翔! おもろいもんいっぱいなしよ。スゥーハァー」
「なあ、茉琳、探している本は見つかった。色々と走り回るのはいいのだけど。転んでも知らないよ?」
店のあちらこちらを動き回る茉琳に呆気を取られていた翔がボソッと問いただす。
それを聞いて茉琳の動きがピタッ止まる。
「ハァハァ。本命を忘れてたなし。ハァハァ、店員さんに聞いてみるなり。ハァ、翔、教えてくれてありがとうえ」
「息切らしているし、全くしょうがないねえ」
茉琳は、急ぎ店員に聞くべく脱兎の如くレジに駆け込んだ。翔は呆れたという顔をするのだけれど目線だけは茉琳の姿を追う。
しばらく、レジで話していた茉琳ではあるのだが、トボトボと肩を落とし帰ってきた。
『翔。き………』
翔の間近まで来たところで表情が固まった。目も空ろになり歩みも遅くなっていく。終いには翔に抱きつく様に倒れ込んでしまった。
茉琳にも持病がある。一酸化炭素中毒による意志障害。前触れもなく気を失ってしまうというもの。ここに来て発症してしまった。
「まっ、茉琳⁉︎」
抱きつかれて翔は一時慌てるものの、何度か同じことを経験するだけあって、落ち着いて茉琳を跪かせ、ひら座りにさせていった。それほど時を置かずに
「かはっ」
茉琳は息を吹き返す。ゆっくりと顔を巡らし翔を認識していく。
「うっ、ウチ。また、気を失ったなり。ごめんね。翔くん。いつも、いつも………」
「もう、慣れっこだよ。まあ、助けられて良かったよ。何時、なるかわからないからヒヤヒヤもんだけどね」
『ううん、ありがとう』
そのうちに、茉琳は訥々と話し始めていった。
『店員さんに聞いたら、売れちゃて、もう無いんだって。増刷もないらしく入荷の目処も立たないって。一緒に連れてきてもらったのに、ごめんなさい』
「売り切れならしょうがないよ。今日は諦めよう。あとで本のことを教えてよ。俺も気にして探してみるからさ」
『翔くん!』
茉琳は笑顔を見せると、再び翔に抱きついていった。今度はギュッと、
『えへぇー』
「ちょっと、茉琳さん」
『もう少しだけでいいから、このままで居させて』
翔も自分の発作が出ないか、心配で慌てるも、無事に済むみそうなのを感、茉琳のしたいままにさせている。
「そろそろ、大学に戻らないと次の講義が始まるよ。急いで戻ろうよ」
『うん、戻ろ』
「また、連れてきて欲しいなり」
そうして2人は立ち上がり、本屋を出ていく。帰る道中、茉琳は翔の腕に抱きついて離れなかっな。
【茉琳、そのけしからん胸で翔を誘惑するのやめてくれる!】
〔でも、ウチの自慢の胸を翔に押し付けてるのって茉莉なりよ)
【バレたか】
翔には決して聞こえることのない茉琳の胸中の会話だったりします。




