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川面にて花弁と戯れる

よろしくお願いします

 茉琳が診察の為に翔の地元に来た次の日、2人はバスに乗っている。


「バスで行くなんて良かったのか」


 隣に座る茉琳に翔は話しかけた。


「えっ、何」

 

 窓際に座って、外の景色を見ていた茉琳は返事が送れた。


「外へ出掛けるのに車の方がよかったんじゃ無いかって思ったんだよ。前は…」


 翔は次にしゃべる言葉を躊躇った。茉琳の元彼の話をしないといけなかったからだ。

 元彼はすでにこの世にいない。茉琳を道連れに車の中の密閉空間でレンタンに火をつけたんだ。茉琳に一酸化炭素中毒という酷い後遺症を残して1人逝ってしまったんだ。

 茉琳は自分の全てをかけて彼を愛したと言っている。少しでも思い出すと彼のいない寂しさで泣いてしまう。自分が置いて行かれたことを後悔してしまうんだ。


「別に車に乗ってなんて考えてないなり、それよりも翔と一緒に行けることが嬉しいなりよ」


 嬉しい事を茉琳が言ってくれるせいで翔は頬が熱を持ち出す。


「それよりあそこの桜見て見てなしー。殆ど満開え。綺麗なりね」


 乗っているバスの車窓から道端に咲く桜の木が見える。少し前までは、蕾が殆どだったのが2 3日前からに陽気で一気に咲き始めてしまった。

 目的地まであとすこしなのだが満開の桜を見るたびに茉琳は燥いでいた。その度に茉琳は振り返り笑顔を見せてくれる。

 それが眩しくて鼓動も早くなってしまう。道中ほとんど茉琳の笑顔を見れて、来てよかったと書けるも内心喜んでいた。


 しばらくバスに乗って、目的地でバスを降りる。ここから徒歩になる。少し歩くと川の土手道路に行きつき、それに沿って歩く。

 すると、満開になっているものを見かけた。ふてりはさらに歩き続けていく、


「翔、すごいよ、桜の花が川面に雪崩れ落ちてるよ。うわぁ うわぁ」


 今日は河川の土手に植えられた桜が丁度見頃になっているというのできてみた。

 観光で市外から見にくるほどではないけど地元の名所と言える桜並木。斜めになっている地盤に植えられているお陰で枝が川を覆うように伸びているためか、花が咲くと丁度川面に落ちているように見える。土手にある小道を歩いて行く。小道の上にも枝が張っているから、桜の花のカーテン越しに対岸の桜が見える。見応えのある景色が広がっていた。


「すごいねぇ、桜の華に囲まれてるぅ。」


 見事な景色に茉琳ははしゃいでいく。


「桜一色だね」


 咲いている木下で近くの保育園や養護施設から見にきたのであろう、小さな子や人生の先輩たちが一緒っに桜を楽しでいた。


 すると丁度、土手にある柵が切れているところがあって、土手を降りて下を流れる川まで降りる小道があった。多くの、やんちゃな人たちが歩き、踏み固められてできたものである。

 それを見つけて、


「下に降りる道があるのぉ、降りてみるなり」

「おい、足元気をつけないと滑るよ」


 しかし茉琳は、滑ることなく小気味よく下に降りて行った。そのうち川辺におりきった。川も浅いのだろう、足場にできるくらいの石があり、対岸へ渡っていけそうだ。その石を伝って川の中程に立つ茉琳。頭を左右に巡らせている。


「桜の華に埋もれそうだよぉ〜、すごい、すごい。翔、みてえ」


 彼女が手を振り上げ、するりするりと体を回している姿は、何かの舞踊を踊っているように見える。すると川面を滑るように風が吹いてくる。

 少し強めの風が花桜の花を散らし、舞上げ、吹雪いて行く。

 そのうちに茉琳も花吹雪に紛れて見えなくなってしまう。



◇ ◇ ◇


「きゃあ」


 茉琳の叫び声と水音。どうやら川に落ちたようだ。風が止み、花びらの大方が落ちて川面を覆い尽くすか、どこかに飛び去って行った。

 翔は茉琳がいた辺りを見るのだが見当たらない。肩にかけていたデイパックを投げ捨て慌てて土手を駆け下り、濡れるのも構わずに川へ入って行く。

 水量も少なくて流れもほとんどないのが幸いして足を取られることもなく、川の中程まで歩いていけた。

 風に散らされた桜の花びらが川面を覆い尽くす中に白い手が見えた。力なく川面から突き出している。すぐそばにコットンパンツを履いている膝頭も見えた。

 そして川面に浮かぶ花びらに囲まれた白いデスマスク、いや目を閉じている彼女が顔がわかった。


「茉琳!」


 翔は茉琳に近づき首の後ろに手をさしいれて起こす。ふんわりブラウスの袖は腕に絡みつき、まとわりついて下の肌色を晒している。

 濃いブラウンのベストを着ているお陰で下着が透けることはない。普段だらしなく広がり汚れたようになっている黄色く染めた髪も濡れて艶やかな色になって水面から広がっている。


 何か、つぶやきが聞こえた。


「ごめん、ごめんね。ヒーくん。ごめん、ごめん」


 茉琳だ。ボソボソと呟きながらうなされている。今はずぶ濡れだからわからないが涙も流しているに違いない。

 このままではいけないと考えて翔は茉琳の頬を叩く。一回、2回。3回目を叩こうかとしていると瞼が開いた。

 アンバーな瞳が左右を探る。翔を認識したのか、


「翔くんか?」


 彼女は目を瞬かせる。


「どうしたのこんなところであれ?、あれ、あれ?」


 茉琳が頭を左右に振りながら、いつもとは違う口調で話しかけられて翔はドギマギしている。


(声は違うけど、俺の呼び方喋り方は記憶にある。茉莉と同じだ)


「私は病院にいて……あー!」


 茉琳は翔の手を離れて起き上がった。


「ごめん、ごめんなしー。桜の花びらに目をまわしちって足がすべったのぅ。あっ、翔も濡れてるしー」


 茉琳は慌て、手を振り回しながら混乱している。だが喋り口は茉琳のそれである。


 翔は茉琳に近づいて」手をまわして腕ごと抱きしめた。混乱して慌てて、また川に落ちても困るからだ。それは彼女を抱きしめた事の自分への言い訳でもある。


「大丈夫。大丈夫だから、浅いから溺れないよ。大丈夫、大丈夫」


 翔は茉琳の背中を優しく叩きながら宥めていく。


   どう、どう、どう」


「茉琳は馬さんじゃないしー」


 最後は変なあやし方をしてプンスカされてしまった。でもいつものマリンのペースに戻ったようだ。


「岸に戻るよ。ここにきた時の石を通るから足元気をつけて」

「こめん、ごめんなしー。翔も濡れちゃった」

「そんな事良いから、早く渡ろう」



 しかし


「クチュン」


 返事のかわりが小さくも可愛いくしゃみだった。翔は笑顔で茉琳は恥ずかしさに紅潮して、岸まで渡り終えた。


「クチュン」


 先ほど投げ捨てたデイバックの中には常日頃、茉琳対策で大きめのタオルを複数枚、真空パックして入れてある。

 それで拭いているのだが足りない。近くのホテルにとも考えるが土地勘がない。


 すると人が近づいてきた。


「あのー」


 保育園のお花見に付き添いで来ていたお姉さんだった。彼女が助け舟を出してくれた。

 すぐ近くに大規模のショッピングモールがあると教えてくれった。


 現在、2人はショッピングモールの中にある、コインランドリーにいる。翔も茉琳もラップタオル姿。大きなタオルを着て着替えができるというあれである。

 あの後、アドバイスを受けて、ショッピングモールの中にあるディスカウントファッションショップで大きなタオルを数枚買う。

 丁度見かけたラップタオル(大人用)も購入した。手持ちのタオルで吹きあげたとはいえ、濡れた後ありありの2人に店員は訝しんでいたけど。

 そしてコインランドリーへ移ってラップタオルを被り、着ていたものを脱いで洗濯と乾燥をしている。


「なんか懐かしー。幼稚園でプール入る時にこんなので着替えてたし」

「俺はフルチン」

「何それ、笑える」

「いーじゃねぇか。純真だったんだよ」

「まっ、そういことにしとくよう。シッシー」


 乾燥機が動きゴウンゴウンと音を立てている。


 翔はしばらく逡巡の後、拳を強く握り、


「なあ、まり」



 と茉琳に呼びかけた。しかし反応はないように見えた。


 しばらくして、


「呼んだかなぁ、まりって誰? 私は茉琳だしー」


 少し怒気の含んだ返事が返ってきた。


「まさか、他の女と間違えたのかなぁ」


 彼女がプンスカし出す。だが


「ごめんね。言い間違いだよ。そんなに怒らないの」

「なら、いいなり」


 穏やかな返事が返ってきて翔はほっとしていた。

 しかし翔は知らない、マリンが翔に見えないようにしている拳は力を入れすぎて白くなっていることに。


 乾燥機から作業終了のチャイムがなる。すると、


「ねぇ翔。今日はありがとう。大変な事あったけど桜の花の雪崩、桜吹雪、楽しめたんだよねー。最後は失敗して巻き込んじゃったけど。良かったよ。ありがとなりね」


 茉琳は翔に笑顔を見せた。翔は内心、安堵する。


「いっーよ。いつものことだから」


 だから皮肉混じりで返事ができた。


「ゔゔー、いつもどじってないしー、自信ないけど」


 茉琳は暫くいじけていたりする。


ありがとうございました。

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