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姉ちゃんはたぶん桃太郎の話をしてるはず。

作者: 夏至たると

 姉ちゃんは話が好きだ。

「むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

 お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 この後、桃太郎が出てきて鬼退治して終わるんだけど、脇役から始まる話っておかしくない?」

「いや別に。昔話だし」

 私に同意を求めないでほしい。


「とりあえずお爺さんの柴刈りをシヴァ刈りにしようか」

 舌の根の乾かぬうちから何言ってんだこの人。

「巻き舌になっただけじゃん」

「シヴァ刈りのシヴァは、創造神のシヴァだよ」

 ツッコミのつもりが神話になって返ってきた。


「刈るほどいないよ。ってか日本の昔話になんで外国の神様が来るのさ」

「創造神なので作るの得意です。自分の分身をじゃんじゃん作ります」

「忍者か」

「それは置いといて」

 置くのか……。


「創造神なので増えすぎたから作るのやめようとか減らそうとかの発想がいっさいありません。お爺さんが刈ります」

 姉ちゃん、唐突に昔話の本筋に戻した。

「神様を刈るお爺さん、人間じゃない」

「いや、ふつうの人間だよ」

 断言できるのがすごいな。


「神殺しの剣でも持ってんの?」

 グングニルとかロンギヌスとか。博識な姉ちゃんのことだ、そっち方面のすごい武器を出してきそう。

「シヴァ刈り機があります。文明の利器」

 ダジャレか。

 博識の無駄遣い。


「あっ、そうだ。その山ってシヴァのものじゃない? 誰か言ってたじゃん。お爺さんが不法侵入してるって」

 私も妙な話を覚えていたものだ。

「山はお爺さんの不動産です。固定資産税……昔話だから年貢? 年貢を納めなきゃなりません。となると、それなり年商も高い? 従業員、じゃなくて使用人も三人くらい雇ってるのかな。刈ったシヴァを運ぶ人とか、シヴァ刈り機をメンテナンスする人とか」

 姉ちゃんが指を折り曲げながら言う。コンビニの経営みたいだ。


「三人目の役は」

「シヴァを売ります」

 当然のようにのたまう姉ちゃん。

「売るの!? 神様だよね!?」

「話が進まないから次いくよ」

 自分で脱線したくせに。


「で、お婆さんが川で桃を拾って、家に持って帰るわね」

「あれ、お婆さんの描写しないの?」

 お爺さんのときみたいに事細かに。


「桃から桃太郎が生まれてスクスク育ちます」

 無視か。


「桃太郎は鬼退治に行くと言いました」

 成長早いな。


「お爺さんとお婆さんは、そんな危ないことしないでって止めます。いちおう育ての親だから」

「いちおうとか失礼すぎ」

「桃太郎の決心は固いからなあ。どうする妹よ」

「もうそのまま鬼ヶ島行って退治しちゃえば? それでめでたしめでたし」

 私は投げやりに答えてやった。

 さしもの姉ちゃんも沈黙した。



 と思ったら再び口を開いた。

「きび団子とお供を忘れてた」

 忘れたままでいてほしかったな。まだ続くのか。


「お婆さんがきび団子を作って時間稼ぎしてる間に、お爺さんは従業員に作戦を持ちかけます」

「……」

「三人の従業員に」

 念を押してきた。

「あ、はい。どうぞ続けてくださいませ」

 私が言うと、姉ちゃんは満足そうにうなずいた。


「まず、イヌが先回りして説得します。『鬼退治なんて危ないからやめるんだワン』と」

「従業員は」

「桃太郎は『きび団子あげるから見なかったことにして』と」

「買収」

「だからといって手ぶらで戻った日には最悪の場合、解雇されるかも」

「イヌが? 従業員が?」

「イヌは従業員だよ。何言ってんの」

 姉ちゃんこそ、しれっと何言ってんの。


「じゃあサルとキジも従業員とか言うつもり?」

「まあそう慌てずに。イヌは『危ないと思ったら連れ戻す』という条件で桃太郎についていきます」

「うん」

 突っ込んだら話が終わらないだろうな。このまま相づちだけで通そう。


「次に現れたのがサルです。山賊の恰好で『命が惜しくば、身ぐるみ剥いで置いていけ』と脅します」

「えっ、怖い」

「桃太郎が返り討ちにします」

「お供にしないの?」

「『きび団子あげるから真面目に働きなさい』と言いました」

「しないんだ」

「サルは改心してお供になりました」

「するんかい」

「妹よ、あまりせっかちだとかえって話が進まないよ」

「ごめんなさい」

 もう黙っていよう。


「最後に現れたのがキジなんだけど、なんでキジ限定? タカとかワシとか強そうな鳥いっぱいいるのに」

 また脱線した。

「見栄えが良いから」

「なるほど。で、イヌの説得もサルの脅しもダメだったので、キジは別のアプローチで諦めさせなきゃいけません」

「……」

 素直にお供にしちゃいなよ、と私は言いたかったけど。ここも黙っていよう。


「『鬼ヶ島の鬼は一人二人じゃありません。たくさんいます。こんな少人数では対応できません』とキジは言いました。

『きび団子あげるから、キジが太陽を背にして矢でも石でも降らせてくれ』と桃太郎は言いました」

「若干無理があるような」

 黙っていられなかった。

 気になるから。

 ホバリングしながら? それとも旋回しながら? どうやってそんなアクロバティックな攻撃をするのやら。


「鬼ヶ島に着いたら、キジが上空から石の雨を降らせます。これで桃太郎たち地上部隊が一度に戦う敵の数を制限できます」

「鬼もバカじゃないから弓矢でキジを狙うんじゃない?」

「キジは太陽を背にしてるので、鬼たちはまぶしい」

「頭いい」


「そんなわけで鬼退治終わってめでたしめでたし」

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