考えちゃいました。side story
sideサルーン
俺は何時も教えてもらってばかりで何もしてあげられない。
レイチェルの隣に立つんじゃなくて、背中を必死に追いかける。
それがどうしようもなく悔しい。
初めて会った時から見せてくれた。
変えられる未来を。
サハラに稲の穂が揺れる。
何年か前は砂漠だったそこには似た色でも全く違う実りが揺れている。
額の汗に夜の冷えた風が気持ち良く撫でる。
風を感じながら呼吸を整えて目を閉じる。
目を閉じながらレイチェルを思う。
何時もこのサハラの景色の前に立つと胸が締め付けられる。
「サルーン様…。もう今日は休んでください。」
「嫌、後何人かは診れる。今行く。」
アーリア連合国は色んな部族の集合体だ。
今回の感染症も王都だけではなく交易が盛んな地域に発症者が多く出た為にサルーンとは分かれて治療にあたっている。
この力もレイチェルから貰った。
自分の力で誰かを助けられている。
《世界向上クラブ》発足時のレイチェルの言葉を思い出す。
力が無かった為に後悔して欲しくないっと彼女は言っていた。
もし今、この力が無くこの状態で何も打つ手が無かったら俺は如何していたのだろう。
この景色を見る事もなく、つまらないとただ日々を嘆き、あの部屋で空を見ていたのだろうか…。
この場所に立っていられるのもレイチェルのお陰だ。
一昨日見たレイチェルは今まで見たどの彼女とも違っていた。
患者の手を握る手が震えていた様に見えた。
何故か何時も傍に居るアーサーとテトまで居なかったのが気になる。
声をかけたかったが、レイチェルの張り詰めた気配に何も言えなかった…。
傍に居れる様に早くなりたい。
彼女の震える手を握れる存在になりたい。
血に濡れた手を握り締めて病室へと戻った。
sideラインハルト
月が綺麗だと空を見上げながら一息つく。
「何か食べて早く寝た方がいいぞ。」
声の方に視線だけ動かすとジャンが包みを渡してくれる。
包みを受け取り上手く動かない手で開けるとサンドイッチの様な野菜と卵の焼いた物が挟まった物が見えた。
「ありがとう。」
礼を言って口に運ぶが喉を通っていかない。
咀嚼を繰り返してなんとか飲み込んだ。
「ジャン…」
口にしようと思った言葉はそれ以上出てこなかった。
ジャンが背中に片手を回して優しく抱きしめてくれる。
「お前は本当に優しいよな。気にするなって言っても気にするんだろうけど…気にする事ないぞ。」
ジャンの回された手から伝わる暖かさが夜の冷えを遠さげる。
ミスト共和国で感染症の治療にあたっていると途中から治療とは別の事に気を取られた。
あのカイザラックの息子だと…あの〝悪魔〟の息子だとヒソヒソ声が聞こえてきた。
顔など知られていないはずだけど誰かが私の名乗った名前で気づいたらしい。
あからさまにそれまでとは違う目で見られて言葉に出来ない気持ちが渦巻いた。
「カイザラック様がした事は居なくなったからって無くならない。めでたしめでたしで話は終わらないってレイチェル様も言ってたもんな。」
レイチェル様の名前が出てまた空を見上げた。
最後に見たあのフェルミナ国でのレイチェル様の背中を思い出す。
あの小さな肩にどれだけの物を背負ってしまっているのか…
それを思うと父上の事を影で言われる位なんでもない様に思えた。
今は優しく肩に手を回してくれるジャンも居る。
2年前には想像もしなかった今がある。
感染症に病む人を助ける力がある。
何もできなかった昔とは違う。
手の中の物を食べ切ったタイミングでジャンが立ち上がる。
「よし!明日も頑張ろう!」
sideジャン
ラインハルトの肩から手を外して自分の太腿を叩く。
そのまま力と気合いを入れないと立ち上がれない鉛の様な身体を立ち上げる。
ラインハルトが自室に戻るのを見送ってから部屋に戻る。
部屋に入るとそのままベットに倒れ込んだ。
制服が脱げなくても身体を拭く事は出来るのに今日はそれも出来そうにない。
昨日より発症者が多かった。
明日はもっと増えるかと思うと戦慄する。
隔離していても、何処まで病が広がっているのか今は分からない。
ミスト共和国はまだそんなに交易は盛んではないのに発症者は沢山いる。
レイチェル様のいるフェルミナ国は1番発症者が多い筈だ。
1人でなんてとてもじゃないが手に負えないだろう。
アーサーとテトが一緒にじゃないなら俺がお供をしたかったがそれは許されなかった。
いつも1人で頑張りすぎる小さな女の子の無事を祈りながら眠りに落ちた。




