聞いちゃいました。side story
side サルーン
「以前、アーサーとテトと夜寝る事があると聞いたが、それでいうとカイル殿下の所にも行ったりするのか?」
肩を僅かに揺らした後、言いたくなさそうに顔を背けた後レイチェルは口を開いた。
「カイルお兄様は…怒るので行きません。」
「殿下が怒る?何故??」
意外な言葉に思わず聞き返す。
「それに、そもそもそれ以前の問題もありますし…。詳しくはお兄様に聞いてください。」
訳が分からずサルーンと顔を見合わせた。
後日カイル殿下に質問してみる。
殿下は微笑みながら可笑しそうに笑った。
この話は此処だけの話でっと言った後、質問に答えてくれた。
「レイチェルは寝相が悪くて安眠妨害されるので断ったのと、僕はそもそも寝る部屋を固定していないので、何箇所かある部屋のどこの部屋に寝るかはその日にならないと分からないのでレイチェルは、それを教えて貰う所から始めるのが嫌なのでしょう。それに夜はアーサーとテトの側が1番安全です。僕は無防備なレイチェルを守れる人の側で寝て貰う方が安心なので…」
以外な答えに唖然としてしまった。
「そんなにクリスタ国で身の危険を感じる場面があるのですか?」
カイル殿下は空より少し濃い青い瞳で真っ直ぐ私を見た。
「どの国でも、ある程度僕達王族は命の危険を感じる事はあるでしょう?」
その言葉に心臓が跳ねた。
「しかし、この国でみなさんが死ぬ事、怪我をしない様に精一杯対策してますので…安心してください。」
カイル殿下は優しく微笑んでそう言うと去って行った。
side ラインハルト
「レイチェル様、以前教えて頂いた〝ビスケット〟という合言葉について質問しても宜しいでしょうか?」
レイチェル様はジャンと騎士の手合わせを楽しそうに眺めながら林檎を口にしている。
離れた所で見学する私達以外に周りに誰もいない事を認してから声をかけた。
「はい!何でしょうか?」
「何故あの様な気の抜ける様な合言葉なのですか?」
レイチェル様は綺麗な空色の瞳を大きく見開いた。
以外な質問だった様で、驚きつつ答えてくれた。
「えっと…合言葉って更新したりするのがいちいち大変ですし、その労力を王宮の全員に強いるのは嫌なので…私のその時の好物の名前にしたんです…いつ変わるか分からないし…何故か私の好物はみんなの噂話で自然にすぐに行き渡るので…。」
少し言いにくそうに林檎に目線を向けた。
「ちなみに昨日からは〝林檎〟になっています。正解を知っていても怪しかったらすぐ知らせがくる様に徹底しているんですよ。言えるだけでは通してくれないです。」
私はその空色の瞳を見つめた。
レイチェル様の空色の瞳が私を映し出す。
「何をしても結局そおゆう目的の方は警備を突破する人は出てきます。それを防ぐのは規則、規律では不可能に近いです。怪しいと思う何かを感じたり心配する気持ちで救われる何かがあるかもですね。空振りでも何か気になる事があったら報告がくる様になっています。普通なら報告にくる事がない事も報告してくれるんですが…それがとっても有益だったりするんですよ。」
切られた林檎の皿を私に手渡してレイチェル様は優しく笑った。
side ジャン
「なぁ、何でアーサーはレイチェル様の事お嬢って呼ぶんだ?」
聞かれたアーサーは振り向くとつまらなそうな顔をしてため息をついた。
「別に理由なんていいだろー。」
「嫌、気になるって。何でだよ。」
しつこく聞くと嫌々そうに顔を歪めて諦めて答えてくれた。
「……俺達は王をもたないし人族の身分階級に縛られない。でも、外の世界でそれは通じないから敬称をつけて呼ばなきゃいけないだろ?俺はそれが嫌だから公式以外は愛称で呼んでるんだよ。」
凄い以外な回答が返ってきた。
アーサーとテトが獣人族だと最近サラッと言われたが、彼らの本当の姿を見た事も無ければその事に関係する話しを聞いた事もなかった。
「何で…俺に獣人だって事話してくれたんだ?」
今度は銀色の瞳を真っ直ぐ俺に向けて静かに笑うと。
「お兄ちゃん王子が言ってたジャンとお嬢が似ている所が分かった事と、ジャンには言っても良いかなって思ったから。」
side キャロル
「少しお時間宜しいですか?レイチェル様とジャンさんが似ている所があり、機会があれば教えてくださると仰っていましたが…」
カイル殿下は優しい微笑みのまま振り返った。
護衛の騎士に離れる様に言うと庭園に誘われる。
レイチェル様とは全く違う雰囲気のカイル殿下を前にすると緊張感が増す。
手が汗でべちょべちょだ。
「それで…その答えを知る機会が訪れましたか?」
唾を飲み込む。
「ジャンさんも他人の為にその身を犠牲に出来ると言う事ですか?」
カイル殿下は庭園の薔薇の匂いを嗅ぎその微笑みの顔を私に向けた。
「そうです。人はほとんどの場合危険に相対した時、自分の身をまず守ります。僕もどんなにレイチェルが大切でも無意識のほんの1秒はまず自分の身を守ります。でもジャンやレイチェルはその瞬間自分以外の誰かの為に動けるんです。だから彼も強くなればレイチェルを守れる人になるだろうと見込んだんです。」
私は、カイル殿下の青い瞳を見返しながら声を絞り出そうと力を入れる。
「僕は貴方達にレイチェルの側には居て欲しくありませんでした。貴方達はレイチェルがその身を犠牲にして守ってしまう存在だから…そして、貴方達は自分の身を守る事すら出来ないのですから…でも最近その考えを変えました。」
カイル殿下が一歩近づいてきた。
「貴方達もレイチェルには必要みたいなので…でも守られるだけの存在なんて友人なんて呼べないですよね?」
カイル殿下がいつもの優しい微笑みのまま私を苦しめる言葉を口にする。
「その通りです。守れるだけの存在なんて友人なんて呼べません。」
私は全身に力を入れる。
カイル殿下の瞳を見たまま言い切る。
「レイチェル様を守る事が出来るのは力だけではありません。私は力以外でレイチェル様の事を守って見せます!」
カイル殿下は満足した様にその微笑みを深めた。
sideニコラ
「…お聞きしても宜しいですか?彼らは本当に獣人族なのですか?」
レイチェル様と銀髪の青年と黒髪の少年を前にして思わず口にしてしまった。
その疑問が私の頭の中にこびりついて離れなかった。ラナの人達もそうだろう。
銀髪の青年は笑いながら指輪を外すとその銀髪から耳と腰の下から尻尾が現れた。
驚いて一歩後ろに下がってしまう。
黒髪の少年も腕輪を外すと同じ様に耳と尻尾が現れた。
私達の目が完全に機能していなかった。
その事を話すと…
「この前私が倒れた時も何も変化が無かったそうだし…この魔法だけ私の特別な思いが篭っているからからかな…」
レイチェル様は小さい声で何かを考えながら呟いていた。
「獣人族の方と直接お会いしたのは初めてです。改めて宜しくお願いします。」
以前は大陸中に居たがその昔、人族の一部の人に虐殺されてその数を減らしたそうだ。
ラナの諜報の人ですらその姿を直接見た人は居ない。
彼らはこの大陸の何処に住んでいるのか謎だった。
「俺達は隠れてるし、人が近づいてきたら逃げるからまぁ会えないよね。」
「私もアーサー達しか会ってもらえません。他の人達にも会っても逃げられるか攻撃されます…」
レイチェル様の顔が陰った。
「テトのご両親の手がかりを探せなくて不甲斐ないです。アーサー達は色々あって私とも話してくれましたが…」
「気にしないでください。両親やその他の仲間はもう居ないでしょう。そうでなければ俺があんな状態になる事なんてあり得ないですし…」
少年は表情を変えないで答えている。
すると、レイチェル様はその少年を優しく抱き締めた。
「テトは獣人語を話せるでしょう?それはご両親が話しかけていたからなんだよ。テトが覚えてなくても確かにそこにいたんだよ。いくつもの言語を話す国があって産まれてなんの言葉も話しかけないで触れ合いをしなかったら赤ちゃんはどの言葉を話すんだろうって実験をやった人がいて…ちゃんと食べ物とか環境は整えても赤ちゃんはちゃんと育たなくて何の言葉も話せずに死んじゃうんだって…。テトが獣人語を話せるって事は覚えてない時に抱きしめて獣人語で話しかけてくれた人が確かに居たんだよ。」
少年は微動だにしなかった。
side テト
レイ様とアーサーと一緒に他国の村にお忍びに行く事になった。
お忍びにたまに連れて行って貰えないと悲しい気持ちになった。
レイ様は俺に傷ついて欲しくない時には連れて行ってくれない事は分かっているので我慢するしかない。
酒場に足を踏み入れると満席で凄い盛り上がっていた。
踊り子が舞台で踊っている。
それを囃し立てる声と酒の独特の匂いが充満している。
席が空いていなかったので立ち見の並びに紛れ込む。
アーサーとレイ様は一緒に立ち見をしてる客に話しかけて話しを聞いていた。
その土地の事や人の生活について聞いて周るのはレイ様の日課だ。
俺も席に座って話す人達の話しに聞き耳を立てる。
日課が終わり離れに戻るとアーサーが大きなため息をついた。
「ぁーあ、あんなに言い寄られても本当の俺の事知らない癖に何言ってんだって思っちゃうだよなー。疲れるし…」
アーサーは今日も綺麗な女の人に言い寄られていた。
全く興味がない相手に対して愛想良くして話しを聞くのはとても疲れるらしい。
するとレイ様はアーサーをその空色の瞳で静かに見つめる。
「アーサー。全部相手の事知らないと好きにならないの?今日あの場所に居たアーサーもちゃんとアーサーだよ。私もレイって名乗ってるけどその時に好意を持ってくれた人に王女の私を知らない癖になんて思わないよ。レイとして接してる私も、私の確かな一部だもん。アーサーの今の姿だってアーサーの偽物じゃなくてアーサーの一部だよ。一部を好きだって思って貰えるのは良い事なんじゃないかな?」
アーサーはレイ様の顔を見ると…
「まぁそー思うとそうだね…。」
アーサーはレイ様に自分は人の好意に鈍い癖にと思っていそうなため息を吐いた。
その様子を見て俺はずっと気になっている事を聞いてみる事にした。
「レイ様って前世の何年分もの記憶を持っているって事はもう考え方とか大人って事なんですか?」
それなのに異性からの好意に鈍感過ぎると思った。
今日も色んな人に狙われたり言い寄られたりしていたのにレイ様は全く気づいていなかった。
「うーん。それが前は中身は大人!見た目が子供なだけだと思ってたんだけど…どーも知識があるだけでそーじゃないみたい。知識は30年分位あってもレイチェルとしての人としての経験は5年分だから…なんか上手く説明出来ないんだけど…完全に大人な訳じゃないって事だね。」
アーサーと顔を見合わせた。
同じ事を思ってる顔だ。
異性に対して鈍感すぎるレイ様が心配だ。
「昨日から色々疲れたし…テトの所で一緒に休んでもいい?」
レイ様は腕輪を外した俺を痛い位に抱き締めながら短い睡眠をとった。




