妖退治 前編
満月の宵の口に開かれる術者たちの会合
「月見草子」
多くの術者たちの秘密の会合、集会の名だ
今夜は久しぶりに芦屋の代表で一千が赴く
少し前の話題といえば伊吹法師駆け落ちの件で持ちきりだったそうだと知人から聞いていた
「よう、芦屋の坊」
年配の陰陽師から声をかけられる
「渋沢さん、お久しぶりですね」
渋沢は陰陽師一派を取り仕切る60代半ばを過ぎた男だ
いつも茶色の着物を着ており、宝石商を営んでいる
「最近千終をとんとみかけないが、元気かい?そういえば山崎の弟子の御披露目が決まったとか」
どこから情報が流れているのかは定かではないが、婚約の話まではまだ掴んでいないらしい
「そうなんですか、めでたいですね」
適当に流すしかない
「伊吹の一件もそうだが、自由恋愛謳歌の時代だからな、我々の血筋もだいぶ薄まった。祈祷師や祓い屋、結界師の者たちももとは陰陽師の血筋だとは思えないな」
陰陽師一派には、他の術者を軽んじる考え方が根強い
術者の大半は血筋を辿れば元は陰陽師
血筋が薄まるにつれ、彼らは使える術式の数が減り今では陰陽師を名乗るのをやめ、各々、特化したものを掲げている
「聞くところによれば、山崎の弟子は血筋はないとか?山崎もいったいどこから拾ってきたやら…だが、式神遣いは珍しいがやはり得体が知れないからな」
一派が血筋にこだわるのには訳がある
唾液や唾には霊力が宿る
駒千が式神を生み出せるのは高い霊力を持ち、唾液と息で生命を吹き込み式神を作る
血筋がない限りそれはあり得ないとされてきた
「例えば、血筋がなくとも、それは可能なのでしょうか。突然変異とか」
駒千が頭をよぎる
「まず、ありえないな。だが、昔ある陰陽師の家になかなか霊力を宿る子が生まれなかったことがある。焦った母親はこっそり祈祷師を雇い、次に生まれる子が陰陽師になれるように祈祷したとか」
「…禁術ですか」
人に術や呪いをかけることは昔から固く禁じられている
「結果的に子は生まれ陰陽師になった。だが、子はそれぞれ天命を持って生まれてくるのだからそれをねじ曲げれば対価を払わねばならない」
「その子はどうなったんですか?」
「20を迎えた晩に、無惨にも妖に喰われて死んだそうだ。禁術を犯した対価だろう。その祈祷師も死んだらしい」
禁術を記された本は術者の中でも由緒ある家柄が管理している
芦屋家もその一家の一つだ
千終が最近禁術に興味を持っているのは知っていた
部屋にあった術本もおそらく芦屋が管理しているものだろう
学術的興味なのか、それとも別の目的か定かではない
「それはそうと、最近妙な妖たちが巷に増えとるらしくて、若いのを色々回してるのだが追い付けない。一千も忙しいだろが加勢してもらえると助かる」
「低級ならあまり手を出さない方がいいのでは?」
「それが質が悪いらしく、苦情もきているらしい。山崎はまた長く留守にするらしいからな、頼むよ」
*****
山崎亭にて
「あー、まぁそういうわけだ」
一千は渋々引き受けたのだろう
最近はなにかと一千と仕事をすることが多いからか少しだけ一千の印象がいいほうに変わったように思える
なんだかんだと断れないし、以外と情に厚い
「それで、私に式神を貸してほしい、と?」
「ああ、頼めるか?」
「それは構いませんが…。私のシキたちは戦闘向きではないので…」
駒千は珍しく言葉を濁す
「わかってる。偵察のために貸してほしんだ。約束するよ怪我なんてさせない」
駒千は丹は勿論、他の式神を自分の子供のように大切にしている
大切な家族であって妖を殺める道具などには絶対にさせたくないのだろう
それは一千もよくわかっている
「恩に着るよ」
「それにしても会合にまで話がくるなんてよほどなんですね」
低級とはいえ意思のはっきりしない妖が人に害を与えることなどめったにない
「場所は棗小学校。都内の私立の小学校だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう」
棗小学校は、幼稚園から大学まである私立名門校だ
「そこで大量の水の妖が湧いているらしい。おかげで今年のプールの授業は中止。飲み水などは持参するようにするなど対策は練られているらしい」
水の妖は本来は、山や川、海辺に生息する
普段は温厚で人里にいても気づかれないが、お盆や彼岸に海辺に近づくと引きずりこまれたり、住み処の川を荒らせたりすると怒って事故を起こしたりする面もあり危険な面もある
うまく付き合えるのが大半だが…
「棗小学校…」
そういえば棗小学校には偶然にも奈津が通っている




