駒千と一千のウェディングプラン後編
六月下旬の最後の週末
「ジューンブライドですかい。洒落てますな」
駒千のワンピースドレスの腕の中で丹がのんびりと背を伸ばす
新郎のほうは陰陽師ということもあって、大勢の陰陽師や祈祷師、結果師たちが出席しているようだ
中でも式神を使役させているのが陰陽師なのでわかりやすい
今日は丹も首にグリーンのリボンを巻き、駒千お手製の赤いチョッキを着させられ一応おめかししている
駒千のほうも念のためワンピースを用意していたが、直前になって千終からワンピースドレスと靴が梱包された小包が届きそれを着ていくことにした
淡いグリーンのワンピースドレスは丁度膝丈でふんわりと動きに合わせて繊細に揺れる
胸元は布とレースがVの形になるようなタイプで綺麗な鎖骨がなまめかしい
足元にはパールが一粒ずつついた綺麗なパンプス
あえてヒールにしなかったのはいざというときに転ばないように配慮してあるのが千終らしい
「駒千、今から控え室に行くぞ。日和さんが駒千を呼んでるらしい」
駒千を呼びに来た一千は、すぐに駒千から目を離す
(兄貴の奴…くっそ)
千終は今日は式場には来ていない
おそらくあの狡猾な兄の事なので2人の企みを遠くから見物するつもりなのかもしれない
それでもきちんと自分の所有物にはマーキングしている
駒千は陰陽術には詳しくないので知らずに身に付けていると思うがあのドレスや靴には厄払いの呪い(まじない)がかけられている
確かに陰陽師や術師たちが一同に集まるのは会合でもなかなかない
そのなかで駒千が目立たぬように呪いをかけているのだろう、かなり高度で繊細な術なのでよほどの術者でない限り見破れない
「日和さんが?なにかトラブルでしょうか?」
「いや、たぶん例の余興の事だろう」
「一千さん、日和さん新婦の参列客はどうしたんですか?」
「ああ。本当の友人知人だそうだ。日和さん、伊吹さんと出会う前から普通の人間の女性として生活していたらしいからね。両家顔会わせの時には、父親だけ紹介したらしい。さすがに母親は紹介できそうにないからな。伊吹家はそれほどもともと霊力が高くない一族だから日和さんレベルの妖気は気づかれないだろうしな」
ただこれからは、違う
陰陽師の妻になるということは少なからずこれから陰陽師たちと関わっていかなくてはならない
陰陽師のなかには妖は払うべき忌むべきものだという古い確執がいまだに残っているものも多い
逆に森羅のように妖たちとうまく共存しようという考え方のほうが斬新で少ないのが現実なのだ
そのためにふたりは第3の道を選んだ
控え室に入ると、真っ白なウエディングドレスを見に纏った日和がいた
細やかなレースが何重にも折り重なり腰は細く胸元にもふんだんにレースがあしらわれている
アップにした髪型に後ろでベールがゆったりとゆれている
まるで物語から飛び出したようなプリンセスのようだ
「本当に素敵です…」
「ありがとう駒千ちゃんもほんとうに可愛いわ」
それに比べて伊吹は、タキシードがパンパンでそれがまた微笑ましくもあるのだがなんだか可笑しい
今日の幸せを存分に詰め込んでしまったような姿に笑みがこぼれる
「なんだかものすごく緊張しているの」
日和が笑う
「ほんとうに、駒千のプランで大丈夫なんですよね?今からでも遅くないですよ日和さん止めるなら今のうちですよ。伊吹さんも」
一千が冷静になおも引き留めようとする
「一度きりの人生の門出だもの。そのためにすべての準備は済ませてあるのよ?なんだかドキドキしてとっても楽しみ」
たいした花嫁だな、ここまで言われては一千とて背に腹は変えられぬ
「怖いなら私一人でやりますよ?」
駒千は挑発するようにけしかける
「俺がやる。駒千は自分の仕事に集中しろ」
「貴方たち、ほんとうにいいコンビね」
まずはチャペルでの式はつつがなく終わった
大勢の陰陽師が来ているので、念のため一千と千終でドレスの妖気を消す呪いをかけたというが、披露宴でのあの賑わいのなかでは誰にも気づかれそうになくてほっと胸をなでおろす
披露宴では二人のもとにひっきりなしに友人や親族が訪れていた
一般の余興もほどよく盛り上がり、ビデオを流したあとの日和が父に手紙を読むシーンにも涙した
そして最後のブーケトスが終わり
二人の退場のシーン。
一千の合図で一気に暗幕が引かれ、昼間の式場に闇が落ちる
そしてまた一気に暗幕が開き会場にまばゆい光がさしこんでくる
「なんだなんだ?」
「サプライズかな?」
会場がどよめくなか、中央の噴水のある庭に続く扉が開く
駒千は鳥形を型どった和紙に血をつけてふうっと息を吹き掛けるとまるで本物のようなおおくの真っ白な鳥が披露宴会場から庭に羽ばたいていく
「見ろよ!すげえ演出だな!」
「真っ白な綺麗な鳥ねえ~素敵!」
新婦側の一般の客には幻想的なようにみえているようだが、新郎側には突然式神が飛び出してきたようにしか見えないようで混乱している
「あれは誰の式神だ?」
「あんな束で出せる奴いたかな」
一千が会場の客を包み込むように結界を張る
駒千は丹を何重にも和紙で囲み会場の天井に空高く投げる 丹一番高いところまでいくと貼り付けられた和紙が1枚1枚広がり翼のように広がりやがてウサギから大きな翼のある巨大な真っ白な鳥になり、一番高いところでブーケトスをした新郎、新婦を右翼と左翼にそれぞれひっかけるような形で持ち上げた
二人はふわふわと中を舞い会場を飛行した
「ええええええ!!!すっごい演出!大胆っ」
「あれってロボ?アイドルのライブみたい!」
これも一般客にはかなり受けていて前もって配っていた花びらを空にむけて一斉に投げ始める
「集中しろよ!落としたら大惨事だそ」
一生懸命一千は結界を張り続ける
駒千も大人2人分を乗せた式神は初めてなのでかなり精神力が消耗される
なんとか二人を式場から庭へ そして庭から空高く遠くに飛ばすことに成功させられた
司会者は呆然と立ちすくんでいたため、一千がマイクを取る
「お2人のこれからからの門出が暖かく幸せな日々になりますように空高く祈りを込めまして皆様今一度大きな拍手をお願いします」
一千がそう締め括り、会場からは拍手の海で包まれた。
無数の真っ白い鳥たちが会場を駆け回り空に吸い込まれるように、そしてあとかたもなく溶けて消えていったのだった
精神と体力、霊力を一気に消耗した駒千は舞台袖でぐったり倒れていた
大きな鳥となった丹はなんとか2人を式場の外に連れ出すことが出来た
そこから先は2人が新しい生活を送るために車を用意してあるのだ
これから先、伊吹は陰陽師というしがらみから解き放たれる
日和も、愛する人はもう何者でもないのだからこれから先は妖も人も選ぶことなく両方でありのままで生きて行けるはずだ
2人の縁はとうに結ばれているのだから。
向かいのビルから式場の一部始終をすっかり堪能し、満足気に残りのカクテルを飲み干す
涼し気で端正な顔立ちは誰もが認める麗しの美形
背は高く、すらりと長く延びた足を組む
真っ白なワイシャツに、シンプルなネイビーのパンツ
光沢があり上品な革靴
その全てのアイテムをそつなく履きこなす青年がひとりいた
「大胆だなぁ。式神を式場に放つばかりが式神を使役して2人を運び出すなんてね。流石は僕のお嫁さん、だ」
彼こそが 名門 芦屋家の当主 芦屋 千終であった
「もうじき、あの力、私のものにしてみせる」
薄い唇を僅かに歪めてほくそ笑んだのだった




