生と死 10
明らかに神社とは逆の方向だ。
山城も拉致されたに違いない。
ペダルを漕ぎながら汗が体中から噴き出す。
閑静な住宅街。
殆ど人の通らない脇道。
暗闇に浮かぶ赤いテールランプ。
――見つけた!
信号待ちの黒いハイエース。
見覚えのある赤い蛇のステッカーが貼ってあった。
ロックされていないことを祈りながら、死角から近寄って後部座席側ドアノブに手をかけた。
カチッ!と手応えがあった。
自転車に股がったまま、思い切りドアをスライドさせる。
「!」
視界に入ったのは、驚く手前の若い男、そして拘束され、猿轡をされた山城、その隣に中年の太ったオヤジ。
犯罪の匂いのする車内と淀んだ空気に一瞬怯んだが、彼女に手を伸ばした。
「山城!」
「なんだ、おまえっ!」
手前の男が俺を蹴飛ばそうとする。
「そいつも連れてけ!」
運転席の方から聞こえた。
「男ばっか要らないって!」「どっちにしろ足らないんだ、引きずりこめ!」
俺を足蹴りしていた男が言われるがまま、今度は俺の腕を引っ張る。踏ん張って抵抗していると、
「くっ!! さっさと乗れよ!」
いつの間にか後ろに停まっていた車が、クラクションを鳴らした。
信号が青に変わったのだ。
「そいつはもういい、行くぞ!」
勢い良く突き飛ばされ、自転車ごとひっくり返った俺の横を、ハイエースがゆっくり動く。ドアが閉まる直前、涙目の山城と目が合った。




