白と黒 25
「その前に両手を広げて見せてくれる?……」
滋岡が物静かな口調で頼み、俺の手を見始めた。
「君も仏眼相が両手にあるね」
仏眼相とは、親指の第一関節に刻まれる、まるで眼のような形をした線だ。これが左にあると守護霊に見守られ、右手にあると感受性がとても豊かだと。ゆえに両方にある者はスピリチュアル力が高いと言われていることは知っていた。
滋岡はなんと全指にあるそうだ。見せてくれたが本当に十本ともあった。なんとも異様な手だった。
次に、滋岡の鋭い目が俺の俺の背後を見つめる。
俺に何か憑いているのか。
自身で視たことがないので、とても興味深かった。
「守護霊は普通だね。だけど……」
何が見えたのか、滋岡は目を見開いて唾を飲み込んでいた。
霊に語りかけているのか、時々、ブツブツと俺の背後に向かって言っている。
数分後。
説明がつかないといった表情で、視えたものを鉛筆で描いて、俺に見せてくれた。
「初めて見たから俺も驚いているんだが、君にはおよそ千年前の霊が憑いている。これは、守護霊でなく主護霊様だと思うけど、前世から君を見守っていると言っている」
けして上手いとは言えない、滋岡が描いた霊は、恐らく陰陽師だった。
これは、父の安倍晴明なのか?
もう少し、滋岡の絵が上手かったら分かったのに残念だ。でも、装いからして陰陽師もしくは神主のどちらかだと思う。
「俺を見守ってる、と言ってるんですね?」
呪詛をかけた滋岡川仁もしくは、彼を雇っていた藤原道兼、三条天皇の怨霊かと思ったが、呪いは残っても霊にはどうやら寿命があるようなのだ。
「そう、君の守護霊は四次元あたりにいるお祖父ちゃんなりわりと近い人だろう。だけど、前世から憑いている主護霊様は、五次元以上の神界の御霊だ」
滋岡が言う次元とは、俺達がいるこの世界を三次元とするなら、霊界を四次元としている。その間に三・五次元というのがあり、そこには天国にいけない霊が彷徨っているのだ。
多くの霊能者や霊媒師の多くは、ほぼこの三・五次や四次元の霊の声を聞き伝えている。
この滋岡のように五次元以上の神界の御霊との仲介ができる霊能者は、日本、いや世界でも僅か一握りしかいないと言われている。
現代最強の陰陽師だと言っても過言ではないかもしれない。




