白と黒 22
世界の伝説の人魚は美女が多いのに対し、日本の人魚は妖怪や鬼の顔をしたものが殆どた。
元のモデルになったものが、西側では神話の女神だったりするのに、東側は魚であることが多いからだという。
日本では八百比丘尼伝説というのが各地に広まっている。
八百比丘尼伝説とは、人魚の肉を食べた八百比丘尼という娘が何百年も生きた話だが、それは各地の風習によって若干内容が変わってくるが基本同じだ。
人魚の肉を食べれば不老不死でいられるという、いかにも人肉をも食べるサタニストたちが好きそうな話だ。
もし、それを意味してあの看板を撮影したのだとしたら、奴らの地下拠点地はどこなんだ?
愛知県か、群馬県か、福井県か、それとも沖縄か――
そういえば。
滋岡道中は秘占術も駆使して行方不明者の捜索もすると、彼のオフィシャルサイトにあった。
しばらく悩んだ挙句に、俺は、そのリンクをクリックした。
「あら、千尋、今日は早いのね」
いつもより一時間早く起きた朝、俺は何食わぬ顔で母さんが作った弁当をリュックに入れて学校に行く素振りを見せた。
「うん、朝練に行くから」
「もうすぐ夏休みで好きなだけ部活できるのに、熱心ねぇ」
母さんが感心して俺にみそ汁をよそおう。
父さんはまだ寝てるみたいだった。
「じゃ、行ってきます」
「もっとちゃんと食べないと……」
みそ汁を二口だけ啜って、玄関に向かう。
俺の背中にまだ何か言っている母さんの声に振り向くことなく、家を出た。
自転車を漕ぎながらおかしな高揚感に目まいがしそうだった。
やばい。
こんなに緊張したの生まれて初めてかもしれない。
今日の十時。
俺は、新宿にある滋岡道中のオフィスで会う約束を取り付けたのだった。




