白と黒 16
一度受理された被害届を何度も出すことに意味があるんだろうか?
それもわからないまま、交番ではなく、前回一度赴いた警察署へ皆で行った。当たりまえだけど、堀先輩のご両親は元気がなかった。
先輩のスマホから送られてきたメッセージや画像を警察で見せると、お母さんは短い悲鳴を上げていた。
「こ、これ賢吾じゃないの?」「怪我してるんじゃないのか」
私のお父さんも、メッセージを見ると顔色を悪くし、頭を下げてお願いしていた。
「この気持ち悪い犯人、早く捕まえてください」
けれど。
刑事のほうは至って冷静に、
「画像の分析をしますので、少々おまちください」
と、私達を取り調べ室みたいなところで待たせた。
冷房は少しだけ効いていたが、窓のないそこは、四人で待つには狭くて暑苦しく感じた。
三十分もしないうちに戻ってきた刑事が淡々と分析結果を告げる。
「これ、【エデンの勇者】っていう音楽グループのミュージックビデオの画像の一部ですよ。息子さんにからかわれてるんじゃないですか?」
「あ……」
思わず、声を出した。
【エデンの勇者】のビデオを今朝、加奈に見せたもらったばっかりだった。まさか、その一部だったとは――。
さらに刑事は続けた。
「この地下鉄入口の写真も、日本中似たような場所は沢山ある。息子さんは悩みがあって旅かなんかしてるんじゃないですか」
「悩み……?」
彼のご両親が顔を見合わせた。
「受験生でしょ? それに、少し前、部活中に先生に矢を放って怪我させたでしょ? あれ以来試合もまともに出てないと聞きました。多感な年頃なんで、もっと家族が話を聞いてあげないと。家出の届出は受理してますし、そのうちお金が尽きたら帰ってくるんじゃないんですか?」
あくまで事件性はないという。
「でも、確かにうちに脅迫の手紙が置いてあったんです、警察に行ったら火を点けるって。そには赤い蛇のマークがありました! それ有名なオカルト団体のロゴだったんです」
あのお気楽で明るい先輩が家出なんかするわけないとわかっていたから、私は熱く食い下がった。
「赤い蛇ぃ?」
刑事は頭を掻きながら、吐き捨てるように言った。
「お嬢さん、ネットの闇に飲まれ過ぎ。近頃は、いろんな企業のロゴマークを深読みして、悪魔崇拝のマークだの、クリスチャンの冒涜だのそれこそ正義の味方のつもりで暴いた風のブログやSNS投稿がわんさかあるんだよ」
「でも、この【ゴールドスター】って組織団体、ほんとに芸能界やら財界やらにメンバーがたくさんいて、七月十三日までに713人の日本人を呪い殺すって……」
スマホを見せながら、検索した記事を確認してもらおうとしたら刑事は豪快に笑って、手を顔の横で振った。
「713人? 呪い? 13日ならもうすぐじゃないか。バカバカしい」
「でも、一応調べてください! 赤い蛇が木に巻き付いたロゴの……」「リリ!」
まだ食い下がろうとした私の肩をお父さんが掴んだ。
「とりあえず、堀君が行けそうな場所を我々も探しますから、警察の方もよろしくお願いします」
ハッとして後ろを見たら、堀 先輩のご両親も、戸惑った目で私を見ていた。
やばいオカルトオタク少女だと思われているのかもしれない。




