白と黒 11
「おはよ、リリ、やけに眠そうね。はい、これ、食べてみ」
登校しても眠たさでボンヤリする私に、加奈が激辛飴をくれた。
「なに、これ」
個装の包み袋には、女性が辛さのあまり、蛇のように二つに分かれた長い舌を痺れさせているイラストが描かれていた。
「これ見て食べる気になる人いるのかな」
「慣れたら癖になるよ」
「んー……。午後からの数学の時に食べるね」
包みを眺めながら、ふと、昨夜検索して出てきたことを思い出した。
赤い蛇をロゴに使ったオカルト団体で、【ゴールドスター】というのがとても気になった。
悪魔崇拝だとか、黒魔術だとか呪いだとかそういうのを好んでする組織で、本当かどうか知らないけど、その起源の七月十三日までに日本人を713人呪い殺す計画があるのだと、漫画みたいな記事を読んだのだった。
その団体には、芸能人や有名人も多く在籍してるらしくて、そういう人は写真撮影やテレビに出る時、さりげなく逆さマンダムをしてポーズを決めるらしい。それ自体がさりげなくないけど。
「ね、加奈、この【エデンの勇者】ってグループ知ってる?」
在籍してる芸能人の中で特に最近人気なのが、その音楽グループらしいのだ。
「あぁ、あのゲームのタイトルみたいなグループね! 外人と日本人混じってる、確かメインボーカルはアレスタっていうイギリス人だったよ。でもあんまし私は好きじゃない」
加奈が答えて眉間に皺を寄せた。
「やっぱり、なんかグロいの?」
「そう、デビューしたばっかの時はそんなことなかったんだけど、最近のプロモーションビデオとか最悪よ」
昨夜、そこまでは検索しなかった。
「最悪って?」
「なんかさー、血のりつけて踊ってたり、血の風呂に入ってたり、どんだけ血が好きやねん! って言いたくなるよ。楽曲もなんかおどろどろしいしさ」
さすが、悪魔崇拝。
「ほら、これ、最新アルバムのジャケット、見てみ」
加奈がスマホで写真を見せてくれた。
「う、わ、蛇に子供が丸呑みされてる」
それは【エデンの勇者】なんて名前に似つかわしくないジャケットデザインだった。
「写真もだけど、なんでこんな音楽作っちゃうんだろうね。デビュー当時のポップなイメージが好きだったファンは離れてくのにさ」
本人たちはカッコいいと思ってるんだろうね、と加奈が鼻を鳴らしていた。
「……自己顕示欲、かもね」
昨日読んだ記事に、悪魔崇拝者はそれを皆に見せつけたくなり、もはや隠さなくなるのだと書いてあった。




