白と黒 10
* * *
『一人で無茶しないでください。今年の誕生日も、来年の誕生日も一緒にお祝いしたいので!』
つい、あんな事を言ってしまった。あの時の、橋本先輩の反応は冷ややかだった。
……――わかってたけど。
先輩はテリトリーに土足で入られるような行為が嫌いなんだろうな。
はぁ、と深く息をついて家の中に入ったら、お父さんが気難しい顔をして玄関先で私を待っていて、低い声でたしなめるように言った。
「あの男の子は、お前の友人のためにお祓いを頼むような人間だから心優しいんだろう。それはわかってる、しかしだな」
お父さんが一度咳払いをした。
「霊能力で誰かを救おうとする人間なんて、ろくな人生を歩まない」
「ちょ、」
思わずお父さんを睨む。
「まともな霊能者になるには、その魂の格を上げないと、悪霊につけこまれ、いろんな霊障に悩まされることになる。彼自身が強い守護霊に守られていても、その周囲にいる人間に悪影響を与えることもあるんだぞ。あの、堀くんのようにな」
はい?
魂の格を上げるってなに?
まさか、滝にでも打たれろ、と?
しかも、
「酷い! 堀先輩のことは関係ないじゃない。どちらかと言えば、うちが巻き込んだ事件だし」
事の発端まですり替えてきた。
それでも、お父さんは苦い顔をして首を振った。
「本当に事件に発展してるのかわからんだろ。それにお前がペラペラと学校で話さなきゃ堀くんだってここに来ないはずだ」
「……それは、そうだけど」
「リリがあの橋本くんを信頼して話した、それが事の始まりだ」
「……」
私は何も言い返せなかった。
そうだ。
あのまま、藁人形を七日間打たせておけば……脅しに屈して、呪いなんて放置しておけば事は大きくならなかった。
でも。
「そもそも、藁人形撤去して、貼り紙なんかしたからあっちがキレて灯油撒いたんだよね?」
もとはといえは、お父さんが悪いんじゃない!
「問題のすり替え! 最低!」
「リリ!」
理不尽な話をするお父さんを、勢いで突破しようとしたら、肩を掴まれた。
「とにかく、あの橋本くんには部活の時間以外は近づくな。いいな?」
私は、子供みたいに、″いーっ!!″ と顔をしかめて振り切って自室に駆け込んだ。
お父さんなんて嫌い!
なんの能力もないのに、ただ形だけの儀式だけやってお金を稼いでるインチキ神職のくせに!
悲しい気持ちに浸り、何もやる気が起きない。
――先輩……。
部屋のベッドで横になって、昨日先輩から貰った″ドラえもん″を眺める。
これをあの知的な橋本先輩が描いたなんて信じられない。
見てるだけで心がほっこりしてくる。
そう、お父さんが言うように、なんだかんだ言って先輩は優しい。
――そうだ。赤い蛇。
私は、先輩も視たという木に巻き付く赤い蛇をネットで検索してみることにした。
堀先輩を拉致したと思われる犯人に結び付くかもしれない。
橋本先輩には犯人捜しするなと言ったくせに矛盾している。
でも。
うちは確かに赤い蛇のマークの脅し文を置かれた。
それを処分したのは惜しいけど、警察にとっては有力な情報になるかもしれない。
しかし、世界中には蛇をシンボルマークびしている企業や団体がかなりあることがわかった。
色は違えど、救急車だったり、自衛隊の記章だったり、米軍医療部隊だったり、医師会だったり。
蛇自体には、悪い意味はないのかな?
白い蛇見たらお金が貯まるっていうし。
浅い所では、私が覚えてる赤い蛇は出てこなかった。
もっと、闇サイトとかブログとか見たほうがいいいのかな?
その日。
私はご飯も食べずにネットサーフインをしまくった。




