白と黒 9
山城は重い口調で続けた。
「私、予知とかそういうのは全くないんですけど、どちらかの事件が先輩の誕生日前に、先輩に悪影響を与える気がするんです」
「悪影響?」
「はい……」
歯切れが悪い。きっと、俺が死ぬって言いたいのかな?
でも、それ、当たってる。
俺が十八歳で死ぬのは間違いないから。
他人の間近の死期は見えるのに、己の死期がわからないのが陰陽師の皮肉なところ。
俺が、誕生日のどのくらい前に転生してしまうのか、それとも当日なのか、どんな死に方をするのか。そこまでハッキリしてないから、俺はまだまともな精神でいられるのかもしれない。
「だから、絶対に一人で無茶しないでください。今年の誕生日も、来年の誕生日も一緒にお祝いしたいので!」
「え……」
「あ、いえ!後輩としてです! なんか凄いこと言っちゃった! じゃ、気を付けておかえりください!」
「……あぁ」
物凄い勢いで社務所に戻っていく彼女の背中を見送った。
薄暗いので、山城の表情はあまりよく見えなかったが、彼女の照れた様子はわかった。まるで告白でもしたみたいだ。
来年、か。
前世で、安倍吉近として参加した、東北院の念仏会での歌合。
巫女であった“彼女”が詠んだ歌は――
『こぞ(去年)の春逢へ君に恋ひにて 桜を思ふと よいも寝なくに』
(去年の春お逢いしたあなたに恋焦がれて桜を思うと夜も眠れない)
自分にあてた恋文だった。
思えば大胆な女性だった。そういうところにも惹かれていた。
俺は、その歌にこう返した。
『あらざらむ 願はくは君のそばにて春死なむ望月の頃』
彼女はハッと顔を上げた。
周りの者も騒然とした。
あまりにも有名な歌をパクったからではない。
父から陰陽道を継いでいた、まさに、これからだという男。
そんな若い男が詠むにしては、突拍子もなく、彼女への返しともとれず、何より不吉だったからだろう。
(もうすぐ私は死んでしまうでしょう。願うなら春にあなたのそばで死のう。満月の頃)
滋岡川仁に呪いをかけられた後で、来年の歌合の頃は会えないことをわかっていた。
前世の記憶は、まだ曖昧な部分も多い。
それとも死に間際に、走馬灯のように思い出されるのか。そして、また忘れて繰り返すのか?
でも、どうせなら、現世でのあたたかい思い出で埋め尽くされたい。
神主の言うように普通の思い出を作りたい。
俺は、あのマンションで遺棄された女性の事件には関わるまいと決めた。
とても気になる事件だったけれど、今のところ、マンションの入居者がいないというだけで、さして自分には影響がないと思ったからだ。
それに正真正銘の陰陽師である、滋岡道中がいずれ解決に導くだろう。
ただ、堀のことは気になった。
能天気でチャらいヤツだけど、俺が冷たい態度でどんなに周りと距離をとっても、アイツだけは気にせずズカズカと入り込んできた。
正直で、わかりやすくて嫌いじゃなかった。
なので、何とか行方を突き止めたかった俺は、気になった、あの赤い蛇を調べてみることにした。




