白と黒 8
あんまり色んな人を視ないほうがいい、と言われたのもあって、防犯カメラの映像を借りることはできなかった。
「長々とお邪魔しました」
社務所を出ると、いい、というのに山城が見送るからと付いてきた。
「お前、昨夜のこと、親に叱られたんじゃないのか?」
今日、俺を見た時の彼女の父の顔を思い出せば、もう、ここに安易にも来れないな、と思った。
「いいえ、先輩の送別会だって嘘ついてたのはバレましたけど特には」
「そうか、ならいい」
鳥居の近くに来ると、急に山城が俺の制服の袖を掴んだ。子供みたいな動きに驚く。
「なんだよ」
「私、堀先輩のことも心配だけど、橋本先輩のこともかなり心配です」
俺は、一瞬、聞き間違いかと思った。
「なんで?」
今まで、親以外の誰かに心配されるなんて経験がなかったから。
「一見、橋本千尋といえば完璧な男の子じゃないですか」
堀みたいなことを言う。
「絵はへたくそだぞ」
「あれはあれで味があっていいんです。でも、どんなに完璧でも、先輩は今、二つのヤバい事件に片方ずつ足を突っ込んでる……」
「お前が言うと棺桶みたいだ」
「そう、だから心配なんです。思ったより橋本先輩は情に流されるし、無茶なことをしようとしても、きっと誰も止める人がいない。先輩に失敗はないと思ってるから。いつも頼ってるくせに矛盾してるんですけど、危険な事からは遠ざかってほしいんです」
「そっちが投げてきた件なのに?」
俺の言い方にトゲがあったせいか、山城が俺の袖からスッと手を離した。
「先輩のおかげで、やっぱりこれは事件なんだとわかりました。でも、犯人の捜索は危険です。あのホテルでの殺人事件も」
今までにないくらい、山城がきっぱり言った。
「私達子供じゃどうしようもないこともあります」




