白と黒 3
保護者にも連絡が回って来たのか、翌朝、母さんが心配そうに尋ねてきた。
「千尋の友達の堀くんが行方不明なんですって?」
「ただ、遊びに行ってるだけかもしれないけど」
「しかし、無断外泊するような子じゃないだろう? あそこの家庭はちゃんとしてる。夫婦そろって公務員だし」
父さんも新聞から目を離して割り入ってきた。公務員って関係あるのかな? と思ったが何も言わず、朝食のトーストをかじった。
「母さん、俺、主食は米がいい」
「こんな時に呑気な子、前は″朝はパン!″って言ってたのに」
「それ中学生の時だろ」
「そうだったかしら? あなたの中学生の時がどんなだったかあんまり記憶がないのよね。あまりにデキすぎた子だったから」
その時すでに、己の運命を感じ始めて、皆が通る反抗期も素通りした。
思えば、親の手を煩わせたり、感情をむき出しにして訴えたこともない。
まさしく、“朝はパン”くらいだ。
「千尋も気をつけろよ。どんなに治安のいい国とはいえ拉致や誘拐はあるからな」
父さんがやや険しい顔になった。
不動産業を営んでいれば、表沙汰になってない、住人やオーナーの蒸発や行方不明事件なども耳に入ってるのかもしれない。
俺は、A子のことをそれとなく訊いてみた。
「この前、教えてくれたマンションの、遺体で発見された若い女の人って、子供いなかった?」
「……なんだ、そんな前の事件が気になるのか?」
珈琲を啜った父さんの顔が渋くなった。
「いや。だって、あのマンション、人が入らないと結構大変なんだろ?」
「うん。あ、そうそう、あの被害者の女性は元々あのマンションには住んでなかったんだ。近くの古いアパートに娘さんと暮らしてたようでな」
「アパート?」
あのマンション近くにあったか?
もし、あったなら、何故、俺は何も感じなかった?
よほど難しい顔をしてたのか、父さんが俺の顔を覗きこんで言った。
「今はないぞ、数年前に取り壊されて更地になってる」
「そう……」
だから、A子は彷徨ってるのか?
娘がいたアパートを探して。
「じゃあ、子供は、誰か引き取ったのかな」
ボソッと言ったつもりだったが母さんには聞こえていて、「そんな見ず知らずの子供より、堀くんのこと心配しなさいよ」と、俺をたしなめた。




