男を食らう鬼 22
「ほんとですか?」
「あぁ、まるで写真みたいだ」
こんなに絵で褒められたの初めて。あの橋本先輩からだから尚更嬉しい。
「弓道部より美術部に入った方が良かったんじゃないか?」
それは微妙。
「そんなことより、その絵を持って警察にでも行くんですか?」
言ってはみたものの、それが非科学的で何にもならないだろうことは察しつく。
先輩は、絵を丁寧に折りたたんだあと、大事そうにシャツの胸ポケットに入れて言った。
「このホテルで霊視するのも限度があるし、後で霊視する。何とかこいつの名前まで割り出したい」
「私が描いた絵なんかで霊視できるんですか?」
「できるさ。山城には被害者が憑依してるし」
「えっ!!」
私が目を見開いて背筋を凍らせてると、先輩が笑った。
「冗談だ。彼女はもうここにはいない」
無念さの塊りみたいなものを感じるが、彼女は犯人じゃなく、たぶん残された子供の行方を探してるから彷徨っている、だから、難しいんだと、神妙な面持ちで先輩は続けた。
二時間はあっという間だった。
ホテルから出る時は、入る時よりも慎重に注意深く周囲を見た。
補導員がいたら面倒だからだそう。
「靴、大丈夫そうか?」
先輩が私の足元を見て気遣う。
「はい、普通に歩けます」
「怪我は?」
「はい、それも平気です」
ただ、伝線したストッキングを脱いでるので気持ち落ち着かない。替えを持ち歩いてこそ大人の女なんだと思った。
「メイク取ったら、いつもの山城だな。そんな服着てても、ちゅうが……」
恐らく、“中学生”と言おうとした橋本先輩の足が止まった。
「……?」
先輩の視線の先を追ったら、ホテルの駐車場入り口で、上を見上げている男の人がいた。
二十代? 三十代?
高級そうな服をピシッと纏ったかなりのイケメンだ。
「知り合い、ですか?」
「いや……向こうは俺なんか知らないだろう」
答えた先輩の顔が少し怖かった。
その男性に注視したまま動かないので、私もそのイケメンを見つめる。
そしたら、気がついてしまった。
「先輩、あの人、芸能人でしたっけ?」
テレビで見たことがある人だって。
「あぁ、“現代の陰陽師 滋岡道中” だ」
冷めた声を出す先輩の目には、まるで憎しみが宿っているようだった。




