男を食らう鬼 21
橋本先輩が私にお願いしたいこと――
それはどう考えても、お祓いだとか霊的なことしか思いつかなかった。
「……わかりました」
軽食を食べ終えたあと、先輩はホテルに常備されているメモ帳をとペンを持ってきて、私に差し出した。
「犯人の顔をこれに描いて欲しい」
「え」
「先輩だって視たんですよね? なら、先輩が……」
「俺は、絵が下手なんだ」
「う、そ」
意外! この何でもできる橋本先輩に苦手なものがあったとは……。
でも、先輩の言う下手って、俗な私達のちょいウマくらいなんじゃ……。
それではりきって描いて恥かいたら嫌だなぁ。
……と、ゴチャゴチャ考える私に業を煮やしたのか、
「俺が描くドラえもんはこうだ」
と、子供のお絵描きのようなものを始めてしまった。
「先輩……、ふざけてます?」「真剣だ」
白いメモ紙に描かれたそれは、髭が六本なければ、ただのハゲおじさんにしか見えない、ある意味、逸品だった。
涙を流して笑う私を、「こんなのでそんなに笑えるなんてお前は幸せだな」と、先輩は呆れていた。
「これ、貰っていいですか?」
「は?」
「誰にも見せません。私がツラい時に見て笑うお守りにしたいです」
いつもクールな橋本先輩が描いたほのぼのドラえもん。(に絶対見えないけど)とても価値があるように思える。
「なんなら、悪運よけの護符をやってもいいが……」
「そんなインチキ霊媒師の必需品みたいなのより、これがいいです」
「インチキ……」
ちょっと、言葉を失ったあと、先輩もクク……と小さく笑って、「好きにすれば」と言ってくれた。
「じゃあ、あの犯人の顔、描きますね」
「ああ」
忘れたいくらい、冷酷で残忍な犯人。
驚くほど、細部まで記憶に刻まれていた悪魔な男。
私が三十分ほどかけて描いたそれを見て、橋本先輩が感嘆に近い声を漏らした。
「すごい、完璧だ……」




