男を食らう鬼 20
「どうした?!」
橋本先輩が声を聞いて、浴室の前まで駆けつけてくれ、擦りガラス越しに先輩の姿が見えて少しだけホッとした。
「か、髪が、わ、私のじゃない髪が湯船に……」
湯舟から飛び出した私は、「み、見てください」と頼んだ。
「……タオル受け取ったら、すぐ部屋に行け」
扉を少しだけ開けて、そこから先輩がバスタオルを差し入れてくれた。
それを体に巻き付けると一目散に浴室から出て部屋に向かう。
まだ体が震えていた。
しばらくして、先輩が戻ってきた。
タオルを巻いたままベッドに潜り込んだ私を、申し訳なさげに見た。
「髪は見当たらなかったけど、でも、彼女がここまで来たのは感じてたよ。悪さする霊ではないけれど、山城を少し脅かしたかったんだろう」
「彼女……?」
「あの部屋で殺された被害者……」
「除霊とかは……?」
「解決するまではしない」
先輩は、なんで、こんな殺害事件に関わろうとするんだろう。
「とりあえず結界張ったから。早く髪、乾かしてこいよ。これ、温めて食おう」
先輩が指したテーブルの上には、いかにも冷凍食品って感じのスパゲッティが並べてあったけれど、見てたらそれなりにお腹も減ってきた。
「はい」
「それと、まだ記憶がはっきりしてるうちに山城にお願いしたいこともある」




