男を食らう鬼 19
「ミートソース二つと、ウーロン茶二つ、あと……」
先輩がフロントへ電話してる間に、私は洗面所に行ってみた。
「わ」
鏡を見て、ぎょっとする。
アイメイクが取れてパンダみたいになってる! これ見て笑わなかった先輩凄い!
落とさなきゃ帰りに電車にも乗れない!
ここ、メイク落としとかあるのかな?
アメニティグッズの籠を探ったら、ちゃんとあった。
そっか。きっと、お泊り前提のカップルもいるもんね。
「さむ……」
冷房が効きすぎているのか肌寒くて、浴槽のお湯を溜める。
洗面所で顔を洗いながら、ついつい、先ほど視た殺害現場を思い出してしまった。
――さっきは、なぜ、あんなに悲しかったんだろう? 涙が溢れるほど。
洗い終え、キュッと蛇口の水を止めて顔を上げた瞬間、
「……え」
鏡を見て固まってしまった。
一瞬だったけれど。
「……今の……」
自分の顔が別人に見えた。
さっきの霊視の中で見た、被害女性の顔に似ていたかもしれない。
「まさか」
私は、フルフルと頭を振って、強烈な残像を視たせいだと自分に言い聞かせた。
だって、私は感じても、けして霊は見えないもの。
頭と体を洗ってから、まだ半分しか溜まっていない浴槽に浸かる。ホッと一息ついて周りを見渡してみる。
家の古い浴室と違って、綺麗でおしゃれで可愛い。ちょっと狭いけど。
ようやく体温が上がったきたせいか、少しだけ眠くなってきて、つい、ウトウトと頭を揺らしてしまった。
ポチャッ、と顎と鼻先がお湯に浸かり、ハッと目を覚ます。
やだ、寝てしまった。
疲れてるのかな? そろそろ上がろう。
湯舟の中で腕を上げたら、一緒のに髪の毛がくっついてきた。
「え……抜けた?」
自分の頭を触る。
そうだ、私、アップにしてるし。
それでも、洗った時に湯船に入っちゃったんだろうか?
もし、橋本先輩が見たら、気持ち悪いだろうから、と掬ってみても、それは次々とお湯に浮かんできて奇妙だった。
それにとても長いし、色もちょっと茶色いような……あれ……。
――これ、私の髪じゃない。
わかった途端、悲鳴を上げた。




