男を食らう鬼 18
「……すまない、こんなの一緒に視て貰って……」
橋本先輩が謝ったのは、私の目から涙が溢れていたからだろう。
熱かった先輩の手が私から離れる。
「……この犯人、まだ逃げてるんですか?」
なぜだか、悲しくて悔しくて仕方ない。
「逃げてもない、かもしれない」
「……どういう意味、ですか?」
「そんなことより、山城のアイメイクが取れて怖いんだけど」
「え」
急いで自分の目元に触れた時だった。
「お客さん! 困りますよ」
エレベーターから従業員らしき男性が降りてきて、部屋に入らないなら鍵を返せと言ってきた。
私たちの不可解な行動がモニターに映っていたんだろう。
「それでも休憩二時間分、三千九百円払ってもらいますけどね。それとも君たち、冷やかし目的の高校……」「入ります!」
疑いの目を向けられた橋本先輩は、再び私の手を取ってすぐそばの部屋の鍵を回した。
「かかと、これでくっつくかな」
ホテルの一室。
小さなソファーに並んで座り、橋本先輩が、取れかけているパンプスのヒール部分に接着剤を付けてくれている。私の脱いだ靴を、だ。
それだけで、とても恥ずかしい。
「あ、もしくっつかなくても、姉、それ殆ど履いてなかったんで大丈夫かと……」
「大事なものだから滅多に履かないんじゃないの?」
「そ、そうですよね」
はは、と掠れた笑い声を出して、後で姉に叱られることを想像したらゲンナリした。
はぁ、と擦りむいた膝小僧を見たら、伝線したうえに、けっこう汚れていた。
「お腹空いたな、ルームサービス頼んでみようと思うけど、山城は何が食べたい?」
パンプスの修繕を終えた先輩が、テーブルのメニューを眺めている。
先輩、余裕だ。
もしかして、こんなところ、初めてじゃない?
それに引き換え、緊張しっぱなしの私はお腹も減らない。
「先輩と同じものでいいです。……あの、ちょっと、足、洗ってきていいですか?」
「いっそのこと、化粧も取って風呂でも入ったら? それで時間潰せる」
「はぁ……」
時間潰せる、か。




