男を食らう鬼 17
以前、橋本先輩に徐霊してもらった時のように、触れた手の甲がジンワリと熱くなった。
瞼を閉じる。
何も見えなかった真っ暗な視界にぼんやりと浮かび上がってきた男女の姿。
――視える。
この扉の向こうの様子が。
九年前のある夏の日。
下着のような露出の多いワンピースを着た女性が、男に髪を引っ張られ、床に組む伏せられている。
男はもがく女性の上に、まるで乳幼児がおまるに座るような姿勢で跨り、ズボンと下着を下ろし始めた。
――これは……。
私が顔を背けようとしたら、先輩がぐっと私の手を握ってきた。
声に出さなくても先輩の言いたいことが伝わってきた。
“目を背けるな、犯人を見ろ”
『いっつも、男を食いもんにして金稼いでんだろ? 薄汚いなりしてよぉ!』
まだ若い男の、女を罵る声も聞こえてきた。
『電話で言ってた、子供がいるシングルだってのも、ただの客寄せだろーが』
『ち…が、』
否定しようとした女性の首をぐっと掴み、さらに下半身を潜り込めせる。
口を塞がれた女性は何とか男の身体から逃れようともがいているが、頭を持ち上げられ、床に何度も打ち付けられて血を流していた。
――酷い……。
身体が震えてくる。
女性の顔に欲を吐き出したあと、男は首を絞め出した。
『……死ね、地獄とこの世の間で彷徨ってろ……』
とうとう女性は動かなくなった。
極めて残忍な行為を目のあたりにしながらも、男の顔や体に注視する。
顔だちはけして悪くはないけれど、サイコな部分が見え隠れするような卑屈な細い吊り上がった目と、歪んだ口元、そして、左耳の下にある大きなホクロが特徴的だった。
シャツを捲り上げた腕の内側に、茶色い痣がいくつかある。着けている腕時計は見るからに高級そうだった。
女性の遺体を少し眺めたあと、男は彼女のバッグを漁り、保険証らしきものとスマホを自身のポケットに突っ込んでいた。
ここで、真っ暗になって視えなくなった。




