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男を食らう鬼 16
三階に移動しても、橋本先輩は直ぐに部屋に入らず、フロアを行ったり来たりしていた。
「違う、ここでもない」
「何が違うんですか?」
「殺害現場」
「さ……」
背筋が凍った。
先輩ってば、今度は一体誰に頼まれてこんなことしてるんだろう?
「でも、近くなってきている」
先輩は一つ一つの部屋のドアの前の手を当て、まるで確認するかのように、目を閉じていた。
「あった、ここだ」
そして、【308】の部屋の前で確信に満ちた声を出した。
「ここで殺人事件が?」
「……うん。犯人は、まだ捕まってない。九年もの間、どこかでのうのうと生きてる」
そんな事件、この東京ではゴロゴロしてるはずなのに。
なぜ、それに橋本先輩が関わるのか。
「山城。お前も、目を閉じてドアの向こうをイメージしてみてくれ」
「は、はい、」ドアの向こうは現実、今頃カップルがイチャイチャしてるだろうとのツッコミを控えて、私も瞼を下ろす。
――私にも見えるだろうか?
九年前の殺害の現場が。
そんな、力があるだろうか?
この人の手伝いができるだろうか?
いつの間にか、橋本先輩は、右手を私の左手の甲に重ねていた。




