男を食らう鬼 15
生まれて初めてのラブホ……。もし、誰かに見つかったらどうしようという不安も、あまりに堂々と入っていく橋本先輩を見ていたら吹き飛んだ。
そうだ、私達はいかがわしいことをするために入るんじゃないんだ。
良くわからないけど、霊視をするためにここに来たんだから。
悲しいけど、私は都合よく利用されてるだけ。
「三階……一つしか空いてないな」
一階も二階も五階も部屋が空いてるのに、先輩は、三階の部屋を選んでキーを抜き取っていた。
エレベータ―の前で、突如、橋本先輩の顔が強張る。
「……どうしたんですか?」
そういうのが一番心臓に悪いんだけど。
思わず先輩の腕にひっつく。
「……ここから、もう見えてる」
「え」
「な、なにが見えてるんですか?」
「男……と女……」
先輩は、階数のボタンを押さないで、さも誰かがエレベーターから降りてきた人がいるかのように、見えない何かを目で追いかけていた。
「既に死んだA子を、抱きかかえて運んでいた……」
「れ、霊が通ったんですか?」
合宿や、悠里や件でかなり免疫ができたとはいえ、この世のモノじゃないのはやはり恐ろしい。
「霊じゃない。霊に見せられてるんだ、旅館の時の山城と同じだよ。しかし男の顔は見えなかった」
先輩は小さく舌打ちして、ようやく三階のボタンを押した。




