男を食らう鬼 14
電車の中でも、先輩はほぼ話をしなかった。
ただ、
「急に悪かったな、親に叱られたら俺のせいにしていいから」
と、私が無理をしてることを察してくれたようで、それだけで不安が少し和らいだ。
――しかし。
電車から降りて、先輩の後をひたすら付いて行った先が、とてもいかがわしい所だったので、私の不安はリターン。
「せ、先輩、こ、ここ、ら、ラブホテルですよね」
「ここは男一人では入りづらい……」
「入りづらいってか、そもそも十八歳以下は入れないんじゃなかったですっけ?」
初めてのデートであまりにも展開が急だ。
「だから、それなりに見えるようにって言ったんだ。まさか、PTA感で攻めてくるとは思わなかったけど」
「わ、私、か、帰ります!」
先輩に憧れてはいるけれど、こんな感じでロストバージンは嫌だ。
向き直って走ろうとしたら、カポッ! とパンプスが片方抜けて、私はスッ転んでしまった。
「おい、平気か?」
痛みと恥ずかしさで立ち上がれない私。行き交う人たちがジロジロ見て笑っている。
――平気なわけないじゃない。
足元を見たら、パンプスのヒール部分が溝の蓋の穴に見事にハマっていた。
「別に取って食おうってわけじゃないんだから、必死こいて逃げる必要はない」
私の手を取って、引っ張りあげながら橋本先輩が笑った。
「……じゃ、何しにこんな所へ?」
パンプスを引き抜くと、ヒール部分が外れそうになっている。
「接着剤、コンビニで買ってから入ろう。あと絆創膏も。……霊視に付き合ってもらえないか」
「れ、霊視!?」
擦りむいた膝をはたきながら、私は素っ頓狂な声を上げた。
先輩、私、ちょっと霊感あるからって、怖いの平気なわけじゃないんです!
と、言ってみたけれど先輩は聞いちゃいなかった。




