男を食らう鬼 13
* * *
どうしよう。
橋本先輩に夜デートに誘われてしまった。
『くれぐれも成人に見える格好で来てくれ』
と、頼まれたものの。
もともと童顔で飾り気の一つもない私は困った。しかも急だし。前もって言ってくれれば、加奈なり悠里なりアドバイスを受けられたのに。
「三年生で引退する人がいて、送別会だったの忘れてたの。遅くならないようにするから」
「送別会? 平日の夜にか?」
「ちゃんと大人も来るんだろうな」
「うん、くるくる」
「あ、おい、どこであるんだ? それに、お前、その恰好――……」
夜に出掛けるなんてめったにないから、両親が心配するのも当然だった。お父さんがまだ何か言っていたけど振り向かずに家を出た。
これを逃したら、きっと、橋本先輩が私を誘ってくれることなんてなくなる。
住宅街に、不慣れなパンプスの、スポッ、カポッという拍子抜けした音が響く。
三歳年上の姉が、大学の入学式の時に履いてたやつを黙って借りてきたのだった。
急ぎ足で待ち合わせ場所の駅に行くと、既に橋本先輩がいた。
「お、お待たせしました」
ほぼ制服と道着姿しか見たことなかった橋本先輩の私服。
眩し過ぎて倒れそうだった。
ゆとりある開衿シャツが、先輩のスマートな身体のラインをさりげなく主張して、それを細身のボトムズでしめてる。
なんてことのない服だったけど、
「先輩、大学生みたいですね」
妙に興奮してしまった。
しかし、先輩は相変わらずクールな目をして私を見つめる。
「高三だからな、あんまり大学生と服装は変わんないだろうけど……お前はあれだな、婦人会の集まりみたいだ」
「え」
「それ、お母さんの服でも借りてきたのか?」
いや、むしろ引いている。
「ち、ち、違います。上から下までお姉ちゃんの服を借りてきたんですよ」
先輩が成人に見えるようにって言ったから、よくわからないメイクまでして。
「そんなスーツ、小学校の入学式の保護者しか着てないだろ。……ま、いっか」
そんなことは大した問題じゃないといった感じで、先輩は駅の構内にさっさと入っていく。
せめて目的地くらい教えてほしいものだ。




