男を食らう鬼 12
″丑の刻参り″ とは、人を不幸にしたり命を奪ったりする呪いだ。
丑の刻(午前一時から三時)に、白装束と一反の帯、下駄履きで、頭には灯した三本の蝋燭わ鉄輪に差して、それをかぶり神社へと赴く。
ご神木に、呪う相手に見立てた藁人形を五寸釘で打ち込む行為を七日間続ければ相手が死ぬと言われている。
そんなことで、人間が死ぬわけないと思うかもしれないが、昔からこの呪いはとりわけ強力とされていた。
藁人形に相手の魂を移し、己に鬼の魂を入れるには、万物が寝静まった丑の刻が適しており、相手が眠っていれば、魂を抜かれて藁人形に移すことができる。
これは、鬼を利用する呪いだ。
しかし、鬼とは恐ろしい人の化身であり、無償で利用される訳がないのだ。
このような呪いをすれば、今度は自分が鬼に利用されることになるということ。
つまり、人を恨むということは自分が鬼になってしまうことだ。
はるか千年もの昔も、陰陽師はこのような″鬼″ と戦っていた。
人の敵は、その形を変えようとも、つねに人なのだ。
「灯油が撒かれていたなら、刑法第112条では放火の未遂罪、刑法第113条では放火の予備罪が当てはまる。予備罪だとうんと罪が軽くなってしまうが、起訴しないよりいいだろう。やっぱり警察に行くべきだ」
俺が信号先にある派出所を指して言うと、山城が驚いたように訊いてきた。
「先輩、なんでそんなことまで知ってるんですか? 弁護士でも目指してるんです?」
「まさか。俺は何も目指してない。父親が不動産してるから建物に関しての法律の話をたまにするってだけ」
何か目標を持っても同じこと。
せめて、三十歳まで生きていられるなら、もう少し人生観も変わったのに。
やるせない感が滲み出ていたのか、山城が心配そうに俺を見た。
「あの、……先輩は進学もしないと聞きました。お父さんのお仕事を継がれるつもりなんですか?」
「それも考えてない」
「じゃあ、何を考えてるんですか?」
「何も」
と、言ったらウソになるか。
今の俺の頭の中は、あの未解決事件の犯人を捜すことでいっぱいだから。
ふ……と、山城の顔を見て思いついた。
「山城」
「は、はい」
「お前、夜、時間ないか?」




